2021年11月16日 15:00 〜 16:30 9階会見場
「脱炭素社会」(3) 江守正多・国立環境研究所地球システム領域副領域長

会見メモ

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書の主執筆者の一人である江守正多・国立環境研究所地球システム領域副領域長が、第1部作業部会の報告書を踏まえ、企業、市民が気候変動にどう向き合うべきかなどについて話した。

 

司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員(時事通信)

 


会見リポート

「化石燃料文明」から卒業を

滝 順一 (日本経済新聞社編集委員)

 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が8月に公表した報告書は「20世紀後半以降の温暖化は人間活動の影響である」と断言した。江守氏は報告書をまとめたIPCC第1作業部会の執筆者の一人である。

 すでに異常気象の頻度が増し現実に温暖化の被害が起きている。気温上昇を放置すると発展途上国の人々や将来世代が深刻な被害を受ける。温暖化の原因をつくったのではない人々が住む場所を追われ食料や水の不足に苦しめられるのは理不尽だ。温暖化に伴う不公平をただす「気候正義(Climate Justice)」が語られることが「日本では海外に比べ少ない」と江守氏は指摘する。

 人類がスイッチを入れてしまった温暖化の影響を免れることはもはやできない。極端な気象が頻発し海面水位の上昇は200年後も止まらない。早期の「脱炭素」により影響を緩和するしか道は残されていない。

 英国で開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で世界の主要国に続きインドなども新たにカーボンニュートラルに踏み出した。日本は昨年10月に2050年のカーボンニュートラル達成を宣言した。

 しかし脱炭素の受け止め方で日本は米国や中国などと異なるという。海外では脱炭素が「生活の質を高める」とみる人が多いのに対し日本では「生活を脅かす」が6割との調査がある。江守氏は脱炭素を「しぶしぶ努力してできる目標ではない」とし、社会の大転換の必要性を強調する。

 パラダイムはすでに変わった。京都議定書の時代は主要国が温暖化ガス削減に伴う経済的負担を押し付けあっていたが、パリ協定では各国は脱炭素に伴うビジネスチャンスの獲得を争っている。中国は太陽光パネルや蓄電池の「工場」となった。

 「脱炭素」ではなく「卒炭素」だ。人類は「化石燃料文明」を卒業する時期に来たという言葉が心に響いた。


ゲスト / Guest

  • 江守正多 / Seita Emori

    国立環境研究所地球システム領域副領域長

研究テーマ:脱炭素社会

研究会回数:3

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