日本記者クラブ賞
日本記者クラブ賞とは
日本記者クラブ賞
日本記者クラブ賞は、報道・評論活動などを通じて顕著な業績をあげ、ジャーナリズムの信用と権威を高めた日本記者クラブ会員および法人会員社に属するジャーナリスト個人に贈られる賞です。スクープ賞ではなく、特に最近数年間の業績が顕著であることが重視されます。1972年、日本新聞学会(現・日本マス・コミュニケーション学会)の元会長、千葉雄次郎氏が自著『知る権利』の出版を記念してクラブへ贈った寄託金を基金として創設されました。その後、趣意に賛同した方々の寄付金を基金に繰り入れ運営しています。
日本記者クラブ賞特別賞
日本記者クラブ賞特別賞は、クラブ賞創設40年を機に2011年、より開かれた賞をめざして新設されました。原則として、クラブ会員以外の内外のジャーナリストやジャーナリズム活動に贈られます。ジャーナリズムの向上と発展につながる特筆すべき業績や活動を顕彰します。
日本記者クラブ賞受賞者
2024年度
北海道放送ヤジ排除取材班 参議院議員選挙期間中に応援演説をしていた安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばした市民が警察に排除された問題を、4年にわたり粘り強く検証し世に問い続けた。劇場拡大版として制作した映画は、ロシアや中国など世界中で表現の自由が脅かされる事態が起きるなか、足下の表現の自由がどのような状況にあるのか、民主主義の土台がどうなっているかを深く考えさせ、ジャーナリズムの向上と発展に大きな役割を果たした。
テレビ静岡「イーちゃんの白い杖」取材班 生まれつき目の見えない女性と重度の障がいを持つ弟、そしてその家族を25年間追い続けた映画・テレビ番組は、「イーちゃん」の自立を通して命と家族という普遍的な問題を描いた。カメラは空気のようにそこにあり、障がい者を特別な人と感じさせずに、一緒に生きることを考えさせる。重いテーマなのに見終わるとむしろ明るくなる。エンターテインメントとして高い評価を得たことも、ドキュメンタリーの可能性を感じさせた。
2023年度
RSK山陽放送「RSK地域スペシャル・メッセージ」取材班 「ゴールデンタイムにドキュメンタリー」という孤高の闘いを、10年を超えて続けていることに、ただ頭が下がる。地方に軸足を置いた、地方のための番組制作がローカル局の存在意義だという強い信念によって、テレビジャーナリズムへの理解を深めることに貢献している。「島の命を見つめて」は人が生き合い、そして死に合う様に腰をかがめて静かに迫り、地域に根差したメディアの底力を感じさせた。
免田事件資料保存委員会 『検証・免田事件[資料集]』は、圧巻の一言に尽きる。重要な裁判記録が廃棄される時代にあって、丹念に資料を残すことの重みとメディアの責任を示した。1983年の再審無罪判決を直接取材した3人が、その後も関係者と交流を続けてこなければ到底なしえなかっただろう。40年に及ぶ活動の継続、検証というジャーナリズムの根幹を体現したこととともに、会社の垣根を越えた共同活動としても高く評価する。(写真は左から高峰武氏、甲斐壮一氏、牧口敏孝氏)
2022年度
西日本新聞「あなたの特命取材班」 読者の疑問や困り事を、LINEなどデジタル時代の新手法を通じて募集し、それを記者が丹念に取材し紙面化する活動は、読者と共につくる新しい調査報道といえる。これは読み手と新聞との距離を縮め、新聞への信頼を取り戻す役割を果たしている。また自社エリア外の地方メディアを主な対象とする取材・報道ネットワークを構築し、読者提供の情報に関する取材協力や記事共有も行い、これもメディア連携の新モデルを提示している。愛知県知事リコール署名大量偽造事件の特報などですでに具体的成果をあげている点も高く評価したい。
2021年度
2020年度
NNNドキュメント・シリーズ 社会派ドキュメンタリー番組を50年間も継続させることは、放送界の常識を超える偉業であり、関係者の努力に敬意を表したい。全国各地のNNN系列局が、環境問題、教育、戦争、貧困などあらゆる社会問題をテーマとして番組を作り続けてきた結果、番組の歩み自体が戦後日本社会の歴史を網羅的に記録した貴重な映像アーカイブとなっており、今後の研究や教育にも活用できる。また地方発のドキュメンタリー番組が毎週全国放送される意義も大きく、現場の意欲と制作力の向上にも貢献してきた。
2019年度
金本麻理子(ディレクター/椿プロ代表) 番組制作会社の代表を務めながら、自らカメラを担いで数々のドキュメンタリー番組を制作してきた。特に戦争が当事者や子ども、女性に与えた影響という重いテーマに一貫して取り組み、戦争の記憶を次代に語り継ぐというジャーナリズムの重要な役割を果たしてきた。2018年に制作した「隠された日本兵のトラウマ~陸軍病院8002人の”病床日誌”~」では、兵士が戦地では発症した精神障害を取り上げただけでなく、彼らの戦後やその家族の苦悩まで描いている。その取材力には目を見張るものがあり、映像の持つ迫力と合わせ、形式化しがちな戦争ものとは一線を画すドキュメンタリーとなっている。
リチャード・ロイド・パリー(ザ・タイムズ アジアエディター/東京支局長) 1995年に英インディペンデント紙の特派員として来日、2002年からは英ザ・タイムズ東京支局長として日本だけでなく韓国・北朝鮮、東南アジア、イラクなど29カ国をカバーしてきた。インド洋大津波や日本の戦後60年を取り上げた一連の記事で海外のジャーナリズム賞を受賞。東日本大震災では、震災翌日から現場で被災者の取材に当たる一方、専門家から東北の歴史や風習などを取材した。著書『津波の霊たち─3・11 死と生の物語』では、被災者や遺族と安易に一体化することなく一定の距離を置きながら貴重な言葉を引き出しており、その取材姿勢は全ての記者の模範である。(※姓はロイド・パリー)
2018年度
「点字毎日」(毎日新聞社) 1922年創刊以来、戦争中も休みなく、日本で唯一の点字新聞として発行を続け、視覚障害者にとって貴重な情報源となってきた100年の歩みは敬服に値する。ジャーナリズムの使命の広がりについても考えさせてくれた。全盲を含む少人数の記者が障害者に関心のあるニュースを独自に取材している点も高く評価された。
2017年度
チューリップテレビ政務活動費取材チーム 情報公開で入手した膨大な資料を丹念に読み解き、富山市議による政務活動費不正受給を暴き、14人の市議を辞職に追い込む流れをつくった。これは報道の果たす本来の役割を示したものとして高く評価された。さらに少人数の取材で政治権力に調査報道で立ち向かった姿勢も、取材の前線にいる全国の記者たちに大きな激励となった。
森 重昭(歴史研究家) 日本でほとんど知られていなかった被爆米兵問題を、会社勤務の傍ら休日を利用して40年の長期にわたり独力で調査を続けて、原爆の犠牲になった米兵の人数、身元を明らかにした。地道な調査で事実に肉迫していく持続力と行動力は、プロのジャーナリストにとっても見本となるものと高く評価された。また米兵遺族との交流を深めることで市民レベルの日米和解に貢献したことも評価された。
2016年度
堀川惠子(ジャーナリスト) 著書『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』(文藝春秋)で被爆者の遺骨を納めた原爆供養塔を取り上げ、原爆投下70年の節目の年に核兵器の非人道性を新たな角度から浮き彫りにした。ほとんど知られていない原爆供養塔の関連文書の発掘から、遺族を探し出しての聞き取りまで、労力を惜しまない徹底した取材力が高く評価された。さらに司法を中心としたこれまでの著作やドキュメンタリー番組制作でも、これまで多くの実績を残していることも評価された。
2015年度
伊東英朗(南海放送ディレクター)・同放送「X年後」制作グループ 南海放送(愛媛県)の伊東英朗ディレクターと制作グループは太平洋での米国の水爆実験による漁船被ばく問題を10年以上も番組や映画を通じて追究している。地方民放局の厳しい制作条件下で、埋もれた事実を粘り強く掘り起こしてきた努力が高く評価された。
2014年度
2013年度
小山鉄郎(共同通信社編集委員兼論説委員) 文芸記者として、安部公房、中上健次など時代の動きを象徴する文学者たちを長年取材してきた。中でも村上春樹には単独インタビューを重ね興味深く紹介した。また漢字の大家・白川静の門下生となり、漢字のわかりやすい解説にも取り組んだ。作家や学者への直接取材により読者への橋渡しに努めた活動が文芸ジャーナリズムの可能性を切り開いた仕事として高く評価された。
山本美香(ジャパンプレス所属) アフガニスタン、イラクなどの紛争地に危険を冒して入り、極限の状況下で苦しむ人びとを取材してきた。戦争の不条理で苛酷な実態を女性や子どもの視点でとらえたルポは、世界中のメディアを通じて報じられた。困難な条件があっても最後まで現場にかけつけた取材姿勢は、若い世代にも影響を与えており、高く評価された。
(2012年8月20日 内戦中のシリアで取材中に銃撃され死亡)
2012年度 *この年度から「特別賞」が新設されました
萩尾信也(毎日新聞社会部部長委員) 東日本大震災直後から岩手県三陸沿岸に住み込み、被災した人々の記録「三陸物語」を毎日新聞にひとりで201回連載した。家族を失った人々の慟哭や失意、そして生きる意味を見いだす再生への過程を、方言を生かした文章で伝え大きな反響をよんだ。多くの記者が現地取材ルポを発表した中で出色であり、大震災報道を代表する優れた仕事として高く評価された。
福島中央テレビ報道制作局 東日本大震災の東京電力福島第一原発事故で1号機が水素爆発した瞬間をメディアで唯一、撮影し速報、多くの住民がこの映像を見て緊急避難した。この放送がなければ、市民も政府も水素爆発を知らずに危険な時間がすぎてしまったかもしれない。原発神話の崩壊を日本と世界に示した映像であり、テレビ・ジャーナリズムの使命を果たした報道として高く評価された。
石巻日日新聞社 東日本大震災で社屋が被災し、新聞発行ができない事態に陥ったが「ペンと紙さえあれば」と6日間、手書きの壁新聞を作り、避難所にニュースを届けた。その記者魂は日本のジャーナリズムの気概と底力を内外に示したものであり、日本の報道史に残る活動である。極限状況の中、新聞の原点に立ち返った報道として高く評価された。
2011年度
2010年度
2009年度
2008年度
2007年度
2005年度
2004年度
2003年度
2001年度
2000年度
1999年度
1997年度
1996年度
1995年度
1994年度
1993年度
1992年度
1991年度
1990年度
1989年度
1988年度
1987年度
1986年度
1984年度
1983年度
1982年度
1981年度
1980年度
1979年度
1978年度
1977年度
1976年度
1975年度
1974年度
日本記者クラブ賞規約
- 第1条:名称
- 本賞は日本記者クラブ賞と称する。
- 第2条:目的
- 本賞は取材、報道あるいは評論活動などを通じてジャーナリストとして顕著な業績をあげ、ジャーナリズムの信用と権威を高めた個人を顕彰するものとする。
- 第3条:資格
- 受賞者の資格は本クラブの会員、または本クラブの法人会員に属するものとする。
- 第4条:表彰
- 本賞は毎年通常総会で授賞する。
- 第5条:選考
- 理事会は、選考委員会の答申に基づき授賞を決定する。選考委員会は、会員から推された候補について推薦委員会が審査した結果を参考にして選考を行う。
- 第6条:特別賞
- 理事会は選考委員会の答申に基づき、原則として本クラブの会員または法人会員に属するもの以外を対象に、内外のジャーナリストやジャーナリズム活動に日本記者クラブ賞特別賞の授賞を決定することができる。
[付則]
- 1.本賞は千葉雄次郎氏の寄託金100万円を基本金として、将来新たに寄付の申し込みがあった場合には、理事会の議を経てこの基金に組み入れる。
- 2.本賞は賞状ならびに副賞とする。
- 3.本賞の選考委員会及び推薦委員会の構成など実施細目については別途内規で定める。
日本記者クラブ賞基金寄贈者・社一覧
1972年9月 | 千葉雄次郎氏(基本金) |
1974年11月 | 読売新聞社(創刊100年記念) |
1975年2月 | 故横田 実氏(遺族) |
1976年5月 | 故小田善一氏(遺族) |
1977年8月 | 故小野秀雄氏(遺族) |
1979年3月 | 朝日新聞社(創刊100年記念) |
1980年2月 | 西村二郎氏 |
1981年9月 | 白石古京氏 |
1982年2月 | 毎日新聞社(創刊110年記念) |
1982年3月 | 故大軒順三氏(遺族・大軒善子氏) |
1983年7月 | 江尻 進氏 |
1983年12月 | 日本テレビ放送網(放送開始30年記念) |
1984年12月 | 故前田雄二氏(遺族・前田富美氏) |
1992年4月 | 故高田秀二氏(遺族・高田和気子氏) |
1996年4月 | 新井 明氏 |
1996年12月 | 日本経済新聞社(創刊120年記念) |
1997年11月 | 城戸又一先生を偲ぶ会 |
1998年1月 | 産経新聞社(創立65年、発刊2万号記念) |
1998年7月 | 藤原作弥日銀副総裁を励ます会 |
1998年7月 | 故江尻 進氏(遺族・江尻敬氏) |
1999年3月 | 朝日新聞社(創刊120年記念) |
1999年3月 | 小島 明氏 |
1999年10月 | 武山泰雄氏 |
2000年5月 | 武山泰雄氏 |
2001年12月 | 小島 明氏 |
2002年3月 | 内海裕土士氏 |
2006年4月 | 故村上重美氏(遺族・村上安子氏) |
2006年4月 | 新井和代氏(故・新井明氏夫人) |
2006年11月 | 日本経済新聞社(創刊130年記念) |
2007年11月 | 鈴田敦之氏 |
2009年6月 | 故平田真巳氏(遺言執行者・戸塚洋子氏) |
2009年12月 | 牟田口義郎氏 |
2010年7月 | 故酒井寛氏(遺族・有馬真喜子氏) |
2010年9月 | クラブ三健人会(今井久夫、田中洋之助、八木恭平各氏) |
2010年10月 | 故今 静行氏 (遺族・中澤英樹氏) |
2010年10月 | 個人D会員(匿名) |
2013年9月 | 故鈴木桂一氏 |
2013年11月 | オイルショック40周年の集い(最首公司氏) |
2014年7月 | テレビ東京(開局50周年記念) |
2017年1月 | 松山幸雄氏(一般寄付金) |
2018年12月 | 中島善範氏(一般寄付金) |