2025年08月20日 18:00 〜 19:45 10階ホール
試写会「壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記」

会見メモ

元朝日新聞社記者で2022年度のボーン・上田記念国際記者賞を受賞した中東ジャーナリストの川上泰徳による長編ドキュメンタリー。

「10.7」後のパレスチナとイスラエルを自らの目で確かめようと、川上は2024年7月から8月にかけパレスチナ自治区のヨルダン川西岸に取材に入り、アイフォンで撮影した。ガザ地区と同様、「壁」で分離された地区で、イスラエルは入植活動を拡大。軍による攻撃や破壊、ユダヤ人入植者による暴力行為など、パレスチナ人を取り巻く環境は悪化の一途をたどる。一方、壁を隔てたイスラエルでは、停戦を求める大規模デモが行われているが、人質の解放を目的としたもので、ガザやヨルダン川西岸の惨状には関心を寄せていない。

「壁」の内側と外側。現地の人々の日常を映し、言葉を拾う中でハマス・イスラエルの戦闘の背景を浮き彫りにした。

 上映後に川上泰徳さんが登壇。いまのイスラエルの状況をどうみているのか、どのように取材・撮影したのかなど多岐にわたる質問に応じた。


会見リポート

占領の実態 壁の外の暴力

川北 省吾 (共同通信社編集委員)

 「取材の記録がドキュメンタリー映画として完成しました」。中東ジャーナリストの川上泰徳さんからメールが届いたのは6月末。渋谷の試写会で鑑賞し、心を動かされた。それが「壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記」である。

 イスラム組織ハマスによる2023年10月7日の越境攻撃。イスラエルは際限なきガザ攻撃と大量殺りくに乗り出す。理解を超える惨事の応酬。根底にある「占領」の実態を自分の目で確かめたかったという。

 24年夏の1カ月、パレスチナとイスラエルを歩き、人々の声を聞いた、その過程を全てスマートフォンのカメラで撮影。ロードムービーのように作品化した。川上さんの取材に同行し、自らも現場に居合わせたように感じられる。

 イスラエルの占領が続くヨルダン川西岸には、占領地とイスラエルを隔てる分離壁がそびえ立ち、パレスチナ住民は「壁の外側」に置かれている。西岸最南端の村ではイスラエル軍による住宅や学校の破壊、入植者による襲撃が横行していた。

 「壁の内側」に住むイスラエル人は、そんな現実を知らない。大手メディアがガザや占領の惨状を報じないため、国民の多くが「加害」意識から目をそらしているという。

 川上さんは日本記者クラブの試写会で「常に壁の内側にいて、外を見ない意識」に言及した。「それはイスラエルだけではなく日本にもある」。壁が表す分断は人ごとではないとの思いをタイトルに込めた。

 重い現実を描きながらも悲壮感はない。苦難を生きるパレスチナ人の強さが伝わってくる。家を壊され、洞窟生活を強いられながら、バラの花を飾って人間らしさを保とうとするパレスチナ女性の笑顔が印象的だ。

 


ゲスト / Guest

  • 壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記

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