会見リポート
2025年08月04日
17:30 〜 19:45
10階ホール
試写会「負ケテタマルカ!!」
申し込み締め切り
会場参加:締め切りました会見リポート
病と闘う少年の心の叫び
鈴木 嘉一 (読売新聞社出身)
「考えてみると、何なんだろう、人間、人生って……。人生終わって、あと、どうなるんだろう」。鹿児島市の本田紘輝君は脳腫瘍の難病と闘いながら、独創的な絵を残し、2008年に12歳で永眠した。闘病中、母につぶやいたこの問いは、哲学的ですらある。鹿児島テレビ放送は06年から20年近く、本田一家を追い続けた。そのドキュメンタリーの映画化は難問への答えとも受け取れる。
鹿児島市立病院で入退院を繰り返す紘輝君は、院内学級の担任教師の勧めで絵を描き続けた。大好きなドラゴンや憎い悪魔、身近な人たちをデフォルメした色鮮やかな絵は、美術コンテストで相次ぎ受賞した。「負ケテタマルカ!!」という懸命な思いを画用紙に込めた作品は、生と死の間に立たされ、つらい治療に耐える少年の心の叫びのように映る。
和食店を営む信作・奈穂美さん夫婦は涙をぬぐい、余命を宣告された一人息子に寄り添い続けた。四元良隆監督は親子との信頼関係を築いたからこそ、3人の心情を浮かび上がらせる印象深いシーンを撮れたのだろう。その最たる場面が紘輝君の最期だった。
多くのドキュメンタリーは、主人公が亡くなったら幕を閉じるが、これは違う。彼の個展を開く機運が高まり、全国に広がる一方、末期がんと診断されていた奈穂美さんは、思いがけない検査結果を告げられる。「紘輝の見たかった明日が私たちの今日なんです」との言葉が、胸に迫る。さらに、この家族を見守ってきた担任の先生、看護師長ら周囲の人々の後日談にも目を配り、作品に厚みと深みをもたらしている。
何かが終わっても、何かが始まり、人の営みは続く。それを記録するドキュメンタリーに終わりはない。
ゲスト / Guest
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負ケテタマルカ!!