2025年12月03日 14:30 〜 16:00 10階ホール
「存立危機事態」神保謙・慶應義塾大学教授、国際文化会館常務理事

会見メモ

「存立危機事態」に関する高市早苗首相の衆院予算委員会での答弁に、中国が強く反発、外交問題へと発展している。

国際安全保障論や日本の外交・安保政策を専門とする慶應義塾大学教授で国際文化会館常務理事の神保謙さんが、「存立危機事態の再検討 平和安保法制と台湾有事」と題し登壇。存立危機事態の概念や法的枠組み、2015年に安全保障関連法が成立した経緯や当時と現在の安保環境の変化を踏まえ、現実にはどのような事態が想定されきたのか、台湾をめぐる米国の戦略的曖昧性、今後の課題などについて解説した。

 

司会 佐藤千矢子 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞社)


会見リポート

無防備に踏み込んだ外交

奥寺 淳 (朝日新聞社編集委員)

 急速に悪化する日中関係。きっかけは、台湾有事を巡り、高市早苗首相が「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうるケースだと私は考えます」と国会答弁したことだった。会見では、安全保障専門家の観点から、なぜここまで日中の解釈が異なるのかなどを読み解いた。

 神保氏は、日本では平和安全法制の成立から10年、存立危機事態は台湾有事を念頭に置いているのは半ば当然だったと指摘する。だから、「中国は何を今さら言っているのだろう」と感じてしまったという。

 しかし、この問題は単なる法律論ではないというのが神保氏の見方だ。1972年の国交正常化以降の「四つの政治文書」では、台湾が中国の不可分の一部であるとする中国の立場を、日本は「十分に理解し、尊重する」としている。日本はあいまいさを残したが、中国は台湾問題は内政であり他国の介入は許さないとの根拠とした。こうした外交的な「合意」と、緊張が高まる安全保障や地政学的な現実との間には、絶望的なミスマッチがあると指摘。「今回の問題は、外交が、安全保障のリアリティーに無防備に入り込んでしまったために起きた」とみる。

 米政府は、台湾有事に軍事介入するかは明示しない「戦略的あいまいさ」を続けている。そこに高市氏は歴代政権より踏み越えた発言をし、中国は台湾を巡る内政問題に、日本が軍事介入すると解釈した。

 ただ神保氏は、高市氏は意図的なシグナルを送ったわけではないだろうとし、「発言するなら戦略的にやるべきだった」とも述べた。

 近年は、日中関係の悪化や邦人拘束が相次いだことで、外交当局者だけでなく、日本の中国研究者やシンクタンク間の知的交流も細っている。神保氏は「大幅な機会損失だ。対話の機会があれば、私はいつでも行こうと思っている」と語り、両国の意思疎通の大切さも訴えた。


ゲスト / Guest

  • 神保謙 / Ken JIMBO

    慶應義塾大学教授、国際文化会館常務理事 / professor, Keio University

研究テーマ:存立危機事態

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