会見リポート
2025年08月04日
16:00 〜 17:30
オンライン開催
「参院選後の社会:欧州の排外主義から考える」樋口直人・早稲田大学人間科学学術院教授
会見メモ
日本や欧州の排外主義に関する研究・著作があり、今年2月からイタリア・ボローニャ大学で客員研究員を務める樋口直人さんが現地からリモートで登壇。欧州から日本の現状や日本での報道がどのように見えているのかなどについて、自身のこれまでの研究を踏まえ話した。
司会 澤田克己 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)
※ゲストの希望によりYouTubeでのアーカイブ配信は行いません。ご了承ください。
会見リポート
排外主義は利益生まない
山本 知佳 (朝日新聞社社会部)
7月の参院選では「日本人ファースト」を掲げた参政党が躍進した。選挙期間中、政府や各党も次々と「外国人政策」を打ち出し、報道各社も「外国人問題」が争点になったと報じた。選挙期間中に問題視されたのは、外国人による土地取得や留学生に対する金銭的支援など。樋口氏はこれらは「本当に外国人問題なんですか?」と問いかける。それぞれ個別の、国土政策や科学技術政策の問題だと指摘した。
また、参政党が支持を伸ばした理由について、生きづらさや閉塞感が背景にあるという説明には疑問を呈した。一般的に、日本の右派の支持者には階層的な特徴がないと言われているからだ。今回は参政党が国政政党の二つの要件をともに満たし、報道量が増えたことなどが影響した可能性を指摘した。
日本の人口に占める外国籍者の割合は3・1%。移民が問題となっている欧州のスペイン(9・3%)、イタリア(9・2%)よりも低く、同じアジアにある韓国(5・3%)、台湾(4・1%)と比べても低い。急速に外国人が増加したから排外的な主張が目立つようになったとは言えないのが現状だ。普段の報道量も、欧州と比べると少なく、社会的関心も低い。樋口氏は、「移民に関して票に結びつかないと思われれば、次回の選挙で焦点は変わるだろう」とした。
加えて「排外主義が高まることによる社会的国家的な利益はない」と指摘する。示唆的だったのは、マスメディアの効果だ。過去の調査の結果として、極右政党の支持者ほど、マスメディアへ接触することで穏健的になることを紹介。「マスメディアが頑張ることで、極端な主張は抑えられる」という。
繰り返したのは、相場観を持つことの大切さだ。移民の多い他国の例を相対化し、0か1かの議論に振り回されず、正確な現状認識が必要だとした。
ゲスト / Guest
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樋口直人 / Naoto HIGUCHI
早稲田大学人間科学学術院 教授 / Professor, Waseda University
研究テーマ:参院選後の社会
研究会回数:1