会見リポート
2025年11月07日
11:00 〜 12:00
10階ホール
フセイン・アル・シャハリスタニ・パグウォッシュ会議会長、カレン・ホールバーグ同事務総長 会見
会見メモ
核兵器の拡散防止、早期廃絶を目指す科学者の集まり「パグウオッシュ会議」の第63回世界大会が広島市で開かれ、11月5日に「広島宣言」を発表し、閉会した。同会議のフセイン・シャハリスタニ会長、カレン・ホールバーグ事務総長が会見し、核の脅威の高まりに加え、AIを指令監視に使用する技術や宇宙空間、バイオエンジニアリングなどでも危険な技術開発が進んでいると懸念を示した。シャハリスタニ会長は、米国のトランプ大統領が核実験の再開を指示したことについて「包括的核実験禁止条約をけん引してきた米国が破ろうとしていることはひどく残念」と述べるとともに「核実験再開のドアを一度開けると、他の核保有国にも広がる。米国以外の国を利することになる。世界が不安定化することにつながる」と警鐘した。
司会 滝順一 日本記者クラブ企画委員
通訳 池田薫 サイマル・インターナショナル
※写真左からシャハリスタニ会長、ホールバーグ事務総長
会見リポート
最新技術の軍事利用に警鐘
野口 英里子 (共同通信社外信部)
米軍による広島、長崎への原爆投下から80年となった今年は、パグウォッシュ会議結成のきっかけとなった「ラッセル・アインシュタイン宣言」の発表から70年の節目でもあった。哲学者ラッセルと物理学者アインシュタインら11人の科学者が核兵器廃絶の必要性を訴えたものだが、いまだ約1万2千発の核兵器が存在する現代において、残念ながら、その意義は全く色あせない。
中国の急速な核軍拡や、ロシアによるウクライナ侵攻などを背景に、「核の復権」が語られている。シャハリスタニ氏は会見で「核が再び使用される危険性に全人類がさらされている」と繰り返し強調した。人工知能(AI)やバイオテクノロジーなど最新技術の軍事利用についても「核兵器と同等の危険性をはらんでいる」と警鐘を鳴らし、「科学が悪用されないよう取り組んでいかなければならない」と訴えた。
イラク出身の科学者であるシャハリスタニ氏は、旧フセイン政権下で核開発への協力要請に応じず、長期間投獄された経歴をもつ。「科学は人々により良い健康や食料を提供し、生活を向上させるためにある」と矜持を語り、戦争だけではなく、世界各地で深刻化する経済的格差の問題にも心を寄せた。
他方、過去にノーベル平和賞を受賞したパグウォッシュ会議だが、知名度の低下は否めない。どう解決していくか。記者から問われたシャハリスタニ氏は「(核兵器がもたらす被害について)私たち科学者は根拠に基づいた証拠を示し、それをあなたがたが人々に伝える。双方が重要な役割を持っている」と応じた。
あなたがたの人間性を心に留め、その他のことを忘れよ―。ラッセル・アインシュタイン宣言の結びに記された有名な一節は、決して科学者だけに向けられたものではないのだと、改めて心に刻んだ時間だった。
ゲスト / Guest
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フセイン・アル・シャハリスタニ / Hussain Al-Shahristani
パグウォッシュ会議会長 / President of Pugwash
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カレン・ホールバーグ / Karen Hallberg
パグウォッシュ会議事務総長 / Secretary General of Pugwash
