2025年11月06日 12:30 〜 13:30 10階ホール
清田明宏・国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)保健局長 会見

会見メモ

パレスチナ自治区ガザでの戦闘をめぐり、イスラエルとイスラム組織ハマスとの停戦合意が発効してから11月10日で1カ月。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)保健局長の清田明宏さんが一時帰国の機に登壇した。停戦合意後も子どもたちの栄養失調は続き、清潔な水や燃料、医薬品も足りていない状況にあるとし、「物理的な戦闘行為はある程度終わった部分はあるが、『戦争』(の影響)は終わっていない」と強調した。

イスラエルでUNRWAの活動を禁止する法律が施行されたことで、今年1月以降、清田さんらUNRWAの国際職員はガザに入れず、1万2000人の現地職員が活動を続けているという。会見では、UNRWAが運営する診療所で現地の職員が診察した生後11カ月の女の子、シラさんの写真も紹介された。栄養状態を判断するための指標となる上腕周囲は今年7月時点で7センチメートルと大人の親指ほどで、急性重症の栄養失調を下回るレベル。11月になっても中等度の栄養失調状態が続いているという。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

教育の再開 ガザの難題

渡辺 丘 (朝日新聞社国際報道部次長)

 清田氏は2015年、ガザで出会った人々と破壊された街をスマートフォンで撮影した写真と、したためた手記をもとに、写真絵本『ガザ 戦争しか知らないこどもたち』(ポプラ社)を出版した。当時、エルサレム特派員だった私に、「戦争で生活が破壊された人々は、尊厳が失われる。そんな子どもをつくってはいけない」と力強く語った。

 あれから10年。ガザはイスラエル軍によるかつてない苛烈な攻撃を受け続け、未曽有の人道危機が広がった。医師である清田氏は会見冒頭、生後11カ月の子どもの上腕の周囲が重度の栄養失調を示す7・5センチだったと説明し、「ガザの戦争は間違いなく人災」と言い切った。

 10月10日にガザの停戦が発効した後も、イスラエルによる人道支援物資の搬入制限は続き、食料の価格は今も戦闘前の2~3倍のものが多く、一般の市民は手が出ないという。戦争による影響という面では「戦争は全く終わっていない」と強調した。

 清田氏によると、ガザでは教育の再開が大きな課題になっている。学校を中心に約100カ所の避難所に約7万5千人の避難民が身を寄せている。「避難した人が教室に住んでおり、帰宅する先がない。どうやって学校で教育を続けていくかは一つの大きな試練だ」と訴えた。

 イスラエルでは今年1月、UNRWAの活動を禁止する法律が施行された。国際職員はガザに入れなくなり、半年分の医薬品と3カ月分の食料がガザから100キロしか離れていないヨルダンの倉庫に保管したままだという。

 清田氏は会見の最後、「ある同僚に『世界はいつになったら我々を人間として扱ってもらえるのか』と聞かれた。その答えは今の私にはない」と苦しそうに語った。そして、こう締めくくった。「彼らの完全に破壊された家や、子どもの教育を再建し、ガザにきちんと残れるようにすることが我々にとって一番大きな使命だ」


ゲスト / Guest

  • 清田明宏 / Akihiro SEITA

    国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)保健局長

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