2025年11月18日 13:30 〜 15:00 9階会見場
「給付付き税額控除」森信茂樹・東京財団シニア政策オフィサー

会見メモ

高市早苗首相が「早期に制度設計を進める」と意欲を示す給付付き税額控除は、実現すれば、日本の税・社会保障制度の大きな改革につながる。

日本での制度導入にあたっての課題を長年研究してきた東京財団シニア政策オフィサーの森信茂樹さんが、欧米での導入事例や給付付き税額控除の仕組み、制度設計に向けた論点などについて話した。

 

司会 今井純子 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

「シン・ゴジラ化」打破訴え

大林 尚 (日本経済新聞社客員編集委員)

 政府が現金給付と所得税の税額控除を組み合わせて中・低所得層の就労意欲を高めつつ、公正な所得再配分をめざす給付付き税額控除は、かたちの違いこそあれ欧米の主要国や韓国が取り入れている。日本は過去20年、導入を訴える政党はあったが日の目を見ていない。

 そうしたなかで高市早苗首相が制度設計に着手すると表明した。社会保障・税分野の改革にとって画期である。絶妙なタイミングでの記者会見には、実現へのラストチャンスという思いが色濃くにじみ出た。

 手本として米国の勤労税額控除と英国のユニバーサル・クレジットを挙げた。前者はフォード共和党政権が導入してクリントン民主党政権が拡充し、後者はブレア労働党政権が制度化しキャメロン保守党政権が大きく育てた史実を紹介した。保守かリベラルかの別なく、工夫を凝らして実施しているのだ。

 日本での導入に欠かせぬ条件として、森信氏は居住者の所得・資産情報を政府が瞬時に把握するための「精緻な情報連携システム」を挙げた。安倍政権のとき、政府会議の席で高市総務相が預貯金口座とマイナンバーのひも付けを訴えたのに対し、時期尚早と横やりを入れた閣僚のエピソードを紹介した。

 もう一つ、日本の弱みは制度の所管官庁と現金給付をする実施官庁がともに不在という事実だ。かつて民主党政権は国税庁と社会保険庁を統合して歳入庁を新設する構想を温めていたが、財務、厚生労働両省の厚い岩盤に阻まれた。官僚が縦割りの枠に閉じこもり、所管官庁不在の現状を森信氏は「シン・ゴジラ化」と皮肉った。「首相が責任官庁を決める行革を断行せねばならない」

 『給付つき税額控除』を森信氏が著したのは、2006年に財務省を退官した2年後だ。当時「社会保障・税の研究者として道を拓き、役所の後輩に範を垂れたい」と話していた。その思いを結実させる好機が来た。


ゲスト / Guest

  • 森信茂樹 / Shigeki MORINOBU

    東京財団シニア政策オフィサー

研究テーマ:給付付き税額控除

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