2025年11月12日 13:30 〜 14:30 10階ホール
デイジー・ヴィーラシンハム AP通信社社長兼CEO 会見

会見メモ

 AP通信社のデイジー・ヴィーラシンハム社長兼CEOが来日の機に登壇し、デジタル戦略やメディアにおけるAI活用についての同社としての考え方や取り組みを話すとともに、トランプ政権下での報道の現状やメディア経営の今後についての質問に応じた。

ヴィーラシンハムさんは、ファイナンシャル・タイムズ紙を経て、2004年にセールスディレクターとしてロンドンでAP通信社に入社した。欧州や中東、アジアなどでマーケティングや映像配信事業の拡大に向けた取り組みを推進。上席副社長兼最高収益責任者(CRO)を経て、2022年1月に第14代社長に就任した。

 

司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信社)

通訳 大野理恵 サイマル・インターナショナル


会見リポート

AI活用 信頼性保ちつつ

飯田 憲 (毎日新聞社外信部)

 「正確で独立した事実に基づくジャーナリズムの提供がこれまで以上に重要だ」。世界中の報道機関が急速なデジタル化と生成AI(人工知能)の台頭に揺れる中、米AP通信のデイジー・ヴィーラシンハム社長兼最高経営責任者(CEO)が訴えるメディアの役割は明快だった。

 会見の主なテーマは三つ。情報を得る手段が多様化した社会で読者を引きつける「デジタル・ファースト」の取り組みと、「収益の多角化」、そして「AIを活用したジャーナリズムの進化」。いずれも日本のメディアが直面する喫緊の課題だ。

 APが日々配信する約5000本のニュース素材のうち、写真やショート動画といったビジュアルを重視した内容は75%、加盟社のライセンス収入や広告に依存しない新たなビジネスモデルを模索し、収益に占める米国外の比率は4割――。世界中の情報を網羅する英字メディアで、一概に日本と比較できないにしても読者や顧客のニーズを徹底的に分析した手法に学ぶ点は多いと感じた。

 印象に残ったのは、AIとの向き合い方だ。APは2023年に報道機関として初めて対話型AIサービス「チャットGPT」の開発元・米オープンAIとライセンス契約を結び、記事の要約や翻訳、見出し案の作成といった編集現場でのAI活用を進めている。ヴィーラシンハム氏は作業効率改善の利点を挙げる一方、「記事の編集や確認に人間のジャーナリストを必ず関与させる」とも述べ、信頼確保の必要性も強調した。

 先行する取り組みに目を奪われがちだが、ヴィーラシンハム氏はメディアの役割への言及も忘れなかった。偽情報があふれる時代だからこそ、信頼と透明性が担保された報道が求められているという指摘だ。持続可能なジャーナリズムの実現のため、現場の記者として何ができるか。示唆に富む会見から自問自答した。

 


ゲスト / Guest

  • デイジー・ヴィーラシンハム / Daisy Veerasingham

    AP通信社社長兼CEO / President,Chief Executive Officer, The Associated Press

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