会見リポート
2021年08月31日
15:30 〜 17:00
オンライン開催
著者と語る『コロナ対策禍の国と自治体』金井利之・東京大学大学院教授
会見メモ
著書『コロナ対策禍の国と自治体ー災害行政の迷走と閉塞』(ちくま新書、2021年5月)では国や行政が講じた新型コロナウイルス感染症対策自体が「禍」を招いている現状を「コロナ対策禍」と位置付け、そのメカニズムや災害行政のあり方を論じた。
著者で自治体行政を専門とする金井利之・東京大学大学院教授が登壇し、この間のコロナ対策について話した。
司会 坪井ゆづる 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)
会見リポート
結果隠ぺいし失敗認めず/適格でない人が権力握る
橋詰 悦荘 (時事通信社解説委員)
新型コロナ感染症が政権を倒した。感染症対策の失敗の原因はどこにあるのか。今の日本の行政システムに埋め込まれている失敗の構造を、金井教授は明快に提示した。現代日本の「行政原論」である。
原論と言うと、大学時代の「経済学原論」や「政治学原論」の科目名を思い出し、すぐに眠気を催す人もいるかもしれない。しかし、この会見動画(日本記者クラブのHPに掲載)は政治・行政を取材する者にとって、何度も何度も見直すことを迫る重い提言の塊である。
なぜ対策に失敗したのか。適格でない人が権力を握っていたから、である。首相退陣の現実を目の当たりにすると、実にシンプルな答えとなってしまう。われわれはこの現実をさらに精緻に見つめ直す必要がある。
金井教授は「政策過程は常に試行錯誤」と指摘する。問題は「対策の結果が失敗しても認めない、結果を隠ぺいする」。その現状である。恣意的な判断をする為政者の権力発動の結果が、今の惨状なのだ。
感染症対策は「隔離」という排除を行政に持ち込む。平時の行政の論理では「排除」は認められないものである。ただ、危険があれば行政は「差別機能を内包する」ことになる。
日本人に強く働く集団圧力を利用した自粛要請。第一波は何とかその特性を利用して乗り切ったかに見えるが、長期化する中でその効能もなくなる。「自分が抑制しているのに他人は…」という矛盾と不満が募り、人出抑制もままならなくなった。
法的規制で制限をしようとしても、リストラが限界まで進んだ行政現場には、制限の対価として払うべきサービスを賄う余力がそもそもない。保健所機能の崩壊がその一例である。
ロックダウンしても、配給経済を展開できない貧弱な社会インフラの現実がある。一部の知事のロックダウン要求について「事前に備えがなくて、できるわけがない」。今の日本は綱渡り社会なのである。
ゲスト / Guest
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金井利之 / Toshiyuki Kanai
東京大学大学院法学政治学研究科教授 / Professor, Graduate Schools for Law and Politics, University of Tokyo
研究テーマ:著者と語る「コロナ対策禍の国と自治体」