会見リポート
2021年08月30日
13:30 〜 15:00
オンライン開催
「新・国際課税ルール」(3) 吉村政穂・一橋大学大学院教授
会見メモ
今年7月の国際課税の大枠合意について「税収再分配を伴い多国間主義への可能性を示した」と評価。一方で「米国議会の支持など実施へは課題も多い」と指摘した。日本への影響については「対象企業数が激減したので事前の予測と違い税収面ではプラスになる」と話した。
司会 小竹洋之 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)
会見リポート
多国間主義維持され、日本は歓迎すべき状況
平田 弓月 (共同通信社経済部)
G20が歴史的な合意と表明した国際的な課税ルールの改革について、吉村政穂氏が今後の見通しや日本へのインパクトを解説した。新しいルール形成の意義を「多国間主義で議論する場が守られ、かろうじて合意が成立した」と評価。国家や企業の複雑な利害が絡み合う法人税競争やデジタル課税の将来を読み解き、日本にとっては「歓迎すべき状況だ」と分析した。
合意の柱は市場がある国に付与される多国籍企業への新しい課税権と法人税率の引き下げ競争に歯止めをかける「15%以上」の最低税率の導入だ。発効へ制度設計の詰めや各国の法制化手続きが残されている。
当初GAFAをはじめデジタル企業への課税が焦点とされたが、デジタルだけに対象を絞らない形で合意された点に着目。今後デジタル企業の多国籍展開を見込む新興国には歓迎されるといい「実は枠組みを長続きさせるポイントになる」とみる。
タックスヘイブンへの対抗策となる最低税率では、大国が最終的に導入するかどうかが重要で、バイデン大統領の下で前向きな姿勢に転じた米国の動向が鍵を握ると指摘。ドイツやフランスも国内法のプロセスを進めると予想し、こうした国々が実行に移せば世界的に大きな影響力があると見通す。ただ問題はアジアだという。「導入するのはG7として前向きな日本ぐらいで、中国はやらないだろう。アジアで最低税率がどれぐらい機能するか分からない」と地域で異なる事情も紹介した。
日本への影響については、背景としてOECDやG20を利用して米国が国際秩序形成に積極的になるのは有利に働くと説明。国家財政にも「純粋に税収だけで考えてもプラスの影響が出る」と予測した。日本企業には国際的なプロジェクトに付き合う負担が生じ、不満が高まるだろうとしつつも、国際協調の面から合意の意味は大きいと結んだ。
ゲスト / Guest
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吉村政穂 / Masao Yoshimura
一橋大学大学院法学研究科教授
研究テーマ:新・国際課税ルール
研究会回数:3