2021年09月06日 13:30 〜 15:00 オンライン開催
「ドイツ総選挙」板橋拓己・成蹊大学教授

会見メモ

 9月26日にドイツで連邦議会選挙(総選挙)が行われる。

4期16年にわたりドイツをけん引してきたメルケル首相は立候補せず引退することを表明しており、この選挙を経て後継者が決まることになる。

ドイツ政治外交史を専門とする成蹊大学の板橋拓己教授が、連立の行方、メルケル首相後の課題、今後の欧州政治や日本、米国、中国に与える影響などについて話した。

司会 大内佐紀 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)


会見リポート

政党間の境目が希薄化/高確率で多党連立に

三好 範英 (読売新聞社編集委員)

 ドイツで16年間続いてきたメルケル時代が終わる。どう総括するか、残した遺産は何か、新政権はどんな課題に直面するだろうか。9月26日に迫った下院総選挙の情勢分析に加え長期的な視点にも目を配った。

 内政的にはメルケルは最低賃金制度、難民受け入れ、同性婚容認など、従来のキリスト教民主同盟(CDU)では考えられなかった政策を進めた。社会の変化にさおさし、CDUをリベラル、中道、社会民主主義化した。都市部の個人主義的でリベラルな高学歴層、女性、若者に支持を広げた。

 緑の党はかつては68年世代(日本で言えば全共闘世代)の新左翼的な政党だったが、社会や仕事で安定した場を持つ都会人の党へと変化した。CDUと緑の党の支持層は重なり、連立が想定できる時代になった。

 一方、保守層はメルケル路線のCDUから離れる。難民危機をきっかけに右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が生まれる。自由民主党(FDP)はコロナ禍で政府の行動規制に反発する人々の支持を集めた。政党間の境目は希薄化しつつ、多党化現象が見られる。

 深刻なのは有権者に明確な選択肢が与えられなくなったこと。つまり、どの党に投票しても結局、かなりの確率で多党間の連立になる。どんな政策を取るかさっぱり予測できない。

 外交的には、欧州、世界での存在感を増大させたのは功績だ。ただ、その勝利の方程式――安全保障は米国に依存、欧州統合を深化、中露と経済的に深く関与――は通用しなくなった。米国から安保の分担を求める圧力は強い。難民受け入れは独断的で欧州の分断を促した。対中露との経済関係強化を推し進めたことで、同盟国の安保上の利益を毀損してまで利益を追求する利己的な国と見なされる。しかも、中露とも期待した自由民主化へ歩みを進めなかった。

 内政外交に渡り、ポスト・メルケルの指導者が担う課題は誠に重い。


ゲスト / Guest

  • 板橋拓己 / Takumi ITABASHI

    成蹊大学法学部政治学科教授 / Professor, Faculty of Law, SEIKEI University

研究テーマ:ドイツ総選挙

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