2021年07月27日 16:30 〜 17:15 オンライン開催
黒田東彦・日本銀行総裁 会見

会見メモ

日銀は16日、金融政策、金融システム、調査研究、国際金融等から成る、気候変動に関する日本銀行の包括的な取り組み方針を公表した。黒田東彦総裁が登壇し、気候変動に関する日銀の取り組みについて話した。

 

司会 藤井彰夫 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)

 


会見リポート

気候変動、新制度で柔軟に/中銀の使命と責務にこだわり

上杉 素直 (日本経済新聞社コメンテーター・論説委員)

 欧州中央銀行(ECB)などに比べて熱心ではないとみられていた気候変動への対応に日銀が乗り出した。7月16日に骨子案をまとめたばかりのタイミングで黒田東彦総裁が日本記者クラブの記者会見に臨むあたりに、意気込みが見て取れた。

 会見中、何度も繰り返していたポイントは2点ある。中央銀行の使命と責務、それから、政策の柔軟さ、だった。

 日銀があえて気候変動の問題に取り組む理由について問われたときも、真っ先に挙げたのが中銀の使命と責務だった。使命と責務とはいうまでもなく、物価の安定であり経済の安定だ。気候変動が長期にわたる甚大な影響をグローバルに及ぼすことがはっきりしてきた。物価と経済の安定を守るため、もはや気候変動の問題に積極的に関わらないわけにはいかない。そんな宣言だった。

 そのうえで、中銀の取り得る政策手段が効力を上げられるかどうか。市場の中立性を守るという中銀の基本を逸脱しないかどうか。検討を重ねた末にたどり着いた結論が、金融機関に脱炭素の投融資を促す資金供給策だった。これなら「ミクロの具体的な関与を避けながら、気候変動への配慮を後押しできる」そうだ。

 日銀が関与するスタンスを強調しつつ、制度の対象になるかどうかという案件ごとの個別の判断はあくまで民間に委ねる。こうした仕組みの柔軟さを強調した。何が脱炭素に資するかの線引きを巡っては欧州などで議論が始まっているが、日銀が自らその論戦に巻き込まれるのを避ける計算も透けて見える。

 質疑応答のなかで、金融政策の手詰まり感について尋ねられると真っ向から反論していた。「物価上昇率は目標の2%に届かないが、2%を目指す政策運営が間違っているというわけではない」。デフレではない状態へ日本経済を持ってきたという自負を改めてにじませていた。


ゲスト / Guest

  • 黒田東彦 / Haruhiko Kuroda

    日本銀行総裁 / Governor, Bank of Japan (BOJ)

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