会見リポート
2021年03月24日
17:00 〜 18:00
オンライン開催
「新型コロナウイルス」(57) イスラエルのコロナ・ワクチン事情
会見メモ
イスラエルは新型コロナウイルスワクチンの国民への接種を世界最速のペースで進めている。
同国コロナ対策専門家チーム代表で、国内最大の保健機構「クラリット」のチーフ・イノベーション・オフィサーでもあるラン・バリチェル氏が現地からリモートで会見し、ワクチン接種の現状や効果などについて話した。
会見にはヤッファ・ベンアリ駐日大使もリモートで登壇した。
司会 内城喜貴 日本記者クラブ特別企画委員(共同通信客員論説委員)
同時通訳 池田薫 / 宇尾眞理子(サイマル・インターナショナル)
※YouTubeの会見動画は全編英語、全編日本語のいずれかとなります。
※全編日本語の会見動画の質疑応答で、質問の日本語訳が流れない部分(34分46秒前後)があります。
質問は以下です。
①イスラエルはワクチン接種における先進国とされる。ワクチンを独占しているとして、他国から批判や非難を受けていないのか。
②世界全体でワクチン接種を公平に実施することへの見解を伺いたい。
会見リポート
大規模接種でワクチン効果確認
安藤 淳 (日本経済新聞社編集委員兼論説委員)
イスラエルの新型コロナウイルスのワクチン接種は驚くべき速さで進んでいる。50歳以上の国民の約8割に対し、2回目の接種を終えたという。使っているのは米ファイザーとドイツのビオンテックが開発したRNAワクチンだ。発症を抑える効果は94%、重症化予防の有効性は92%に達することを確かめた。
これらの数字はワクチン接種を受けた約60万人を、それぞれ年齢や宗派が同じで接種を受けていない60万人と比べてはじき出した。他に例をみない、実データを使った詳細な比較の結果であり説得力がある。
一人の感染者が生み出す新たな感染者数を示す実効再生産数は約0.6と1を大きく下回り、感染は確実に減っているという。
RNAワクチンは従来とは異なる先端技術を使っているだけに、当初は効果や安全性に懐疑的な見方もあったが、イスラエルのデータによって、それはかなり払拭された。これからワクチン接種を本格化する日本にとっても、安心材料となる。
ロックダウンを解除する際に「出口戦略」として導入した「グリーン・バッジ」と呼ばれるスマートフォン向けのワクチン接種証明アプリも興味深い。証明がある人については行動制限を緩め、感染リスクの高いところにでも入れるようにした。たとえば、ある程度混み合ったレストランや劇場に行くことができる。
日本だと若者の行動範囲が広がるのを想像するが、イスラエルでは「高齢者が社会との接点を取り戻し、心身両面の健康を改善できる」(バリツェル氏)効果を狙っている。寝たきりの高齢者が減り、消費行動も刺激されて、医療費の抑制と経済回復の両方につながる好循環を期待しているようだ。
国の大きさ、人口、社会構造などが違い、イスラエルの実情を単純に日本とは比較できない。パレスチナの人々への接種が後回しにされたなど人道的な問題もある。だが、すぐに使える国産ワクチンがなくても戦略的に素早く動くことで、ここまで対策を進めた経験は大いに参考になる。
ゲスト / Guest
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ラン・バリツェル / Ran Balicer
コロナ対策専門家チーム代表 / Chief Innovation Officer, Clalit Health Services / Chairman of the national expert advisory team to the government on Covid-19 response
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ヤッファ・ ベンアリ / Yaffa Ben-Ari
駐日大使 / Ambassador to Japan
研究テーマ:新型コロナウイルス
研究会回数:57