会見リポート
2021年03月05日
13:00 〜 14:30
オンライン開催
「3.11から10年」 被災地ドキュメンタリー監督座談会
会見メモ
日本記者クラブでは、東日本大震災以後、被災地を追ったドキュメンタリー作品の試写会・上映会を数多く実施している。これらのうち4作品の監督(遠藤隆氏、小森はるか氏、島田隆一氏、尹美亜氏)による座談会をオンラインで開催した。
司会 福田裕昭 日本記者クラブ企画委員(テレビ東京)
◆座談会登壇者:
・遠藤隆氏(「たゆたえども沈まず」監督)
・小森はるか氏(「空に聞く」監督)
・島田隆一氏(「春を告げる町」監督)
・尹美亜氏(「一陽来復 Life Goes On」監督)
写真左から遠藤隆氏、小森はるか氏、島田隆一氏、尹美亜氏。
会見リポート
ラストシーンは「奇跡の一本松」
鈴木 嘉一 (読売新聞出身)
テレビは言うまでもなく速報性や即時性を武器とする一方、一過性を宿命とする。そうしたテレビの番組に比べ、映画は生命力が長い。東日本大震災や被災地をテーマにしたドキュメンタリー映画の監督4人の座談会が、オンラインで開かれた。
テレビ岩手が製作した「たゆたえども沈まず」は、遠藤隆・シニア報道主幹が監督を務めた。遠藤さんにとっては、北上山地で酪農に生きる大家族を四半世紀にわたって追い続け、2019年に映画化した「山懐に抱かれて」に次いで2作目となる。ちょうど座談会当日の3月5日、東北3県で劇場公開された。
同局のライブラリーに保存されていた1850時間分もの震災関連映像を基に編集し、震災直後のビデオレターに登場した10人の近況なども加えた。テレビでは「もう津波の場面を見たくない」という視聴者の声を受けて抑制していったが、津波のすさまじさを伝えるため、映画には各地の映像を入れたという。映画では、津波にのまれた車の電気系統が故障したため、鳴り続けるクラクションの音が生々しく聞こえた。
小森はるか監督は東京芸術大学から同大学院に進む直前、東日本大震災に遭遇し、被災地にボランティアとして入った。地元の人に「カメラを持っているなら、私の代わりに故郷を撮ってほしい」と言われ、撮り始めた。1年後、岩手県陸前高田市に移住し、タネ屋さんを主人公にした「息の跡」、臨時災害放送局の女性パーソナリティーに密着した「空に聞く」を作った。芸大の友人と共同監督した「二重のまち/交代地のうたを編む」は、2月に公開された。被災者の心の変化について「かさ上げ工事が始まった時、記憶のよりどころだった土地が消え、もう一つの喪失を経験した」と指摘する。
昨年公開された島田隆一監督の「春を告げる町」は、福島県広野町を舞台にして、震災後に新設された県立ふたば未来学園の演劇部の活動や復興の模様、原発事故の影響を記録した。東京から1年以上通い続けて取材し、「初対面でも僕らを家にあげてくれた。福島の人たちの懐の深さや優しさに助けられました」と振り返る。
小森さんも島田さんも30代と若く、これからが楽しみだ。
尹美亜(ユン・ミア)監督の「一陽来復 Life Goes On」(18年)は、復興庁の助成を受け東北3県で撮った。「地元の人同士では震災の話をしない。私たちが訪れると、堰(せき)を切ったように話し始めた。忘れられるという不安からでしょうか」。題名は「冬が去って春が来る」という意味で、「春を告げる町」に通じる。
「たゆたえども沈まず」は、朝日を浴びる陸前高田の「奇跡の一本松」で終わる。「ラストシーンはあれしか考えられなかった」という遠藤監督の思いは、被災地全体に届くだろう。
ゲスト / Guest
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遠藤隆 / Takashi Endo
「たゆたえども沈まず」監督/テレビ岩手シニア報道主幹
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小森はるか / Haruka Komori
「空に聞く」監督
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島田隆一 / Ryuichi Shimada
「春を告げる町」監督
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尹美亜 / Yoon Mia
「一陽来復 Life Goes On」監督
研究テーマ:3.11から10年
研究会回数:15