2020年06月23日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「米大統領選の行方」(3) 白人ナショナリズムと米大統領選 渡辺靖・慶應大学教授

会見メモ

『白人ナショナリズム-アメリカを揺るがす「文化的反動」』(5/19中公新書)を執筆した渡辺靖・慶應義塾大学教授が人種差別に抗議する「Black Lives Matter」運動の広がりが米大統領選に与える影響などについて話した。

司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)

 

シリーズ「米大統領選の行方」

(1) 中山俊宏・慶應義塾大学教授

(2) 松本佐保・名古屋市立大学教授 トランプ大統領と福音派


会見リポート

被害者意識で白人至上主義拡大

大石 格 (日本経済新聞社上級論説委員)

 米社会の分断はいまに始まったことではない。人種対立は移民の歴史とともにあった。だが、近年の人種間の軋轢はやや性格を異にするというのが、渡辺教授の説明だ。

 1950年代~60年代の公民権運動の時代には、米国の人口に占める白人の比率は90%近くあり、黒人はかつての奴隷として見下す存在だった。

 ところが、近年のヒスパニックの急激な流入もあり、あと四半世紀ほどで白人比率は過半数を割り込む見込みだ。白人支配は揺らいでおり、自分たちの国が他民族に乗っ取られるかもしれない。この〝被害者意識〟こそが、いまの人種対立を先鋭化させている要因であり、近著『白人ナショナリズム』の副題にある「文化的反動」はこの現象を指すのだそうだ。

 具体例として挙げたのが、ヒスパニックが人口の4割近くを占める西海岸カリフォルニア州の近況だ。民主党が強く、リベラルな土地柄である。では、人種差別は少ないかといえば、極端な白人至上主義を掲げる政治勢力の活動は、他の地域より盛んである。つまり、白人が少数派になればなるほど、何とかして自分たちの地位を保とうと過激な方向に突き進むわけだ。

 人種差別と聞くと、白い頭巾をかぶり、たいまつを手に真夜中に行進して勢力を誇示するクー・クラックス・クラン(KKK)を思い浮かべる向きもあろう。「いまの若者は頭巾をかぶったりしない」。渡辺教授はそう指摘する。白人至上主義の代表的なイデオローグであるジャレッド・テイラーは、穏やかな語り口の紳士なのだとか。

 裏返すと、白人至上主義は一部の過激派の思想ではなく、ごくふつうの白人の日常生活の一風景になってきているのもかもしれない。ポスト・トランプの時代も、こんな米国と私たちはつきあうことになる。


ゲスト / Guest

  • 渡辺靖 / Yasushi Watanabe

    慶應義塾大学教授 / professor, Keio University

研究テーマ:米大統領選の行方

研究会回数:3

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