会見リポート
2025年06月30日
17:00 〜 19:00
10階ホール
2025年度日本記者クラブ賞・同特別賞 受賞記念講演会
会見メモ
2025年度の日本記者クラブ賞を受賞した日本経済新聞社論説委員会「春秋」担当兼総合解説センター編集委員の大島三緒さん(写真1枚目)、同特別賞を受賞した、中国新聞社「決別 金権政治」取材班(代表:荒木紀貴さん=写真2枚目)、三重テレビ放送ハンセン病問題取材班(代表:小川秀幸さん=写真3枚目)による受賞記念講演会を開催した。これまでの執筆や取材活動、報道にかける思いなどを語った。
司会 江木慎吾 日本記者クラブ専務理事・事務局長
会見リポート
クラブ賞 大島三緒さん
(日本経済新聞社論説委員会「春秋」担当兼総合解説センター編集委員)
●「小文字で語る」縁側から
新聞のコラムには120年の歴史がある。うち20年近く、日本経済新聞1面「春秋」の筆を執る。社説が「大文字」で「床の間」から論を「説く」のに対し、コラムは「小文字」のオピニオンを「縁側」で読者に「語る」と評す。
どんな言葉を選び、何を伝えるか。文学、映画、時には歌詞から、簡潔に核心をつく一言を探り、「自由だけどやっかいな」書き言葉と孤軍奮闘する。ネタは、自分の中に子どもの頃から積み重ねてきた記憶から引っ張ってくる。戦後80年の今、「戦争で周縁部分の人たちが苦労した」ことを意識して、引き出しを増やしている。
数多ある自作から、今年5月16日付を取り上げた。大阪万博のウクライナブースで戦時下の光景を見たことを綴り、70年万博で詠まれた短歌を引用して結んだ。「亡き父の征き苦しみし国なればビルマ館の列に我は並びぬ」(『昭和萬葉集』)。55年の間に日本人が戦争を忘れた、との想いを託した。
「歴史意識と批評性」はコラムの命という。AI(人工知能)の文章力が格段に上達してきたが、オピニオンは書けまいとみる。最後に「気持ちが入るかどうか」が問われるからだ。AIにまねができない自分だけの言葉を、今日も紡ぐ。
稲澤 裕子(読売新聞社出身)
特別賞 中国新聞社「決別 金権政治」取材班
(荒木紀貴 中国新聞社編集局次長兼報道センター長兼編集委員室長)
●「抜かれ」に活を入れられ
河井克行元法相夫妻による空前の大規模買収事件。中国新聞はこれをきっかけに7年に及ぶ取材で政権のカネの問題を指摘する大スクープをものにした。しかしその過程は「抜かれ」の連続だ。
そもそも報道は週刊文春の「車上運動員の買収」から始まる。裏も取れず、文春を引用して「追いかけ」。情報提供先として地元紙が選ばれなかった屈辱もあり、「抜かれたら抜き返せ」が目標に。地元議員を回って「ばらまき」の反転スクープを出すも、今度は読売が「被買収40人の一覧」、さらに「検察の供述誘導疑惑」を報道。それでも抜き返せと買収資金の原資の追及を続け、「すがっち500」などという手書きメモの存在を把握。甘利明氏による100万円提供などの裏を取り、背景に政策活動費や機密費の存在を浮かび上がらせた。リーダーの荒木氏は、「やられるたびに活を入れられ、取材を続けることができた」と明かす。惜しむらくは、他社が追いかけないことだ。「検察も捜査しきれなかった話を中国新聞一社ではできない。メディア全体の力で事実を明らかにし、政治家の説明責任を果たさせることができないかと期待していた」と締めくくったのが印象に残った。
熊田 安伸(スローニュース シニアコンテンツプロデューサー、NHK出身)
特別賞 三重テレビ放送ハンセン病問題取材班
(小川秀幸 三重テレビ放送編成局長、ハンセン病関連映像担当)
●元患者の重い言葉胸に
ハンセン病の療養所がない三重県の独立テレビ局で、ずっと報道制作局にいた小川さんがこの問題を追い続けたのはなぜか。きっかけは2001年、隔離政策を憲法違反とした国家賠償請求訴訟の熊本地裁判決だ。県の元担当者と県出身の元患者との交流を取材して以来、岡山の療養所で暮らす三重県出身者の里帰りなどを伝えてきた。
管理職に昇進しても、合間を縫って撮り続けた。「相手との信頼関係からも、取材は人任せにできなかった」
ドキュメンタリーは12本に及ぶ。伊勢神宮を抱える県として「神都浄化」に走った戦争中の事情を掘り下げ、コロナ禍では「感染症と差別」という視点で取り上げた。『かけはし―ハンセン病回復者との出会いから』など2冊の著書も出し、三重県との共催のフォーラムや教職員向けの講座も担った。
「差別するのは人間だけだ」――講演では、元患者たちの重い言葉を紹介した。「故郷のことは思い出さないようにしている」とは、今も差別や偏見が消えない現実へのやるせなさからだ。
報道現場を離れても、「ハンセン病関連映像担当」としている。ハンセン病を「終わったことにしない」ために。
鈴木 嘉一(読売新聞社出身)
ゲスト / Guest
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大島三緒 / Mitsuo OSHIMA
日本経済新聞社論説委員会「春秋」担当兼総合解説センター編集委員
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荒木紀貴 / Noritaka ARAKI
中国新聞社編集局次長兼報道センター長兼編集委員室長
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小川秀幸 / Hideyuki OGAWA
三重テレビ放送編成局長(ハンセン病関連映像担当)