2025年06月04日 16:30 〜 17:30 オンライン開催
柏原正樹・京都大学数理解析研究所特任教授 会見

会見メモ

「数学のノーベル賞」とも呼ばれ、顕著な業績を上げた数学者に贈られるアーベル賞を日本人で初めて受賞した。ノルウェー・オスロでの授賞式を終え帰国した柏原正樹さんにリモートで話を聞いた。

 

司会 倉澤治雄 日本記者クラブ会員

 

 


会見リポート

若者へ「新しい事に挑戦を」

村上 和史 (読売新聞大阪本社科学医療部)

 「3大分野を渡り歩く『船』に乗って、活躍できた」――。

 「数学のノーベル賞」とも呼ばれるアーベル賞を日本人で初めて受賞した柏原氏は、会見で自身の研究をこのように例えた。

 3大分野とは、数の代わりにxなどの文字を活用する「代数学」、形などを扱う「幾何学」、微分積分などを用いて数学の現象を調べる「解析学」のこと。かつてはそれぞれ独立して探究するのが一般的だった。

 柏原氏は東京大の学生時代からの恩師・佐藤幹夫氏が提唱した「代数解析学」の研究を進め、「3大分野を結びつける箱」とも例えた理論「D加群」の基礎を確立。D加群を用いて数学上の難題を解決するなどし、分野を横断する現代数学の発展に大きく貢献したと評価された。

 授賞式は5月20日に、ノルウェーの首都オスロで開かれた。授賞式を含む数日間は「アーベル・ウイーク」と呼ばれ、若者向けのイベントも開かれてにぎわうという。授賞式の思い出について柏原氏は、賞を授与したノルウェー国王ハラルド5世との会話を振り返った。柏原氏が「78歳でどんな新しい研究ができるだろうか」と打ち明けると、国王は「私は88歳。まだまだできる」と励ましてくれたという。「あと10年は頑張りたい」と力強く語った。

 これまでの歩みを問われると「佐藤先生とは、先生が『代数解析学』という新しい見方で解析学をしようと始めたタイミングで出会った。新しい分野に飛び込めたことは非常に幸運だった」と話し、数学を志す若者へのメッセージとして「どんな小さな事でもいいから、新しい事に挑戦してほしい」と呼びかけた。

 柏原氏はフランスの数学者ピエール・シャピラ氏との研究でも知られ、50人以上と共同研究に取り組んできた。論文も「今書いている」といい、最高の栄誉を得てもなお尽きない研究への情熱がうかがえた。


ゲスト / Guest

  • 柏原正樹 / Masaki KASHIWARA

    京都大学数理解析研究所特任教授

前へ 2025年07月 次へ
29
30
1
2
3
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
19
20
21
26
27
1
2
ページのTOPへ