会見リポート
2025年06月17日
14:00 〜 15:30
9階会見場
「戦後80年を問う」(10) ジャーナリスト 井上亮さん
会見メモ
ジャーナリストの井上亮さんが、戦争責任、アンチの状況、国民の象徴観、バッシングの歴史から、戦後80年間の天皇、皇室に対する国民感情を振り返った。
「皇位継承の議論がされているが、そもそも配偶者がいないと意味がない。皇室に入るとたたかれる(バッシングを受ける)というイメージが広がると、配偶者になる人がいなくなる。手をこまねいていると国民感情により天皇制がなくなることにもつながりかねない」と警鐘を鳴らした。
井上さんは、日本経済新聞社で宮内庁を計19年あまり担当した。元宮内庁長官の「富田メモ」報道で2006年度新聞協会賞受賞。「歴史家の目を併せ持ったジャーナリスト」として、2022年度日本記者クラブ賞を受賞した。2024年4月に退職し、ジャーナリストとして活動している。
司会 橋本五郎 日本記者クラブ企画委員(読売新聞社)
会見リポート
「親しみの副作用」としてのバッシング
中田 絢子 (朝日新聞社社会部)
1945年の敗戦以降、この80年間の天皇と皇室に対する国民感情を、長年の現場取材で培った実感と、膨大な資料を読み込んだ骨太の歴史観で振り返った。
1945年の敗戦により、天皇の位置づけは大きく変わった。国民の間に植え付けられた「尊崇の念」は、「恨み」に変わってもおかしくなかったが、井上氏によれば「国民感情はそれほど激変しなかった」という。そのことが証明されたのが戦後巡幸だった。「天皇の陳腐化」が起きたからだという。「国民の目の前に現れたのは、ちょび髭で猫背、『あ、そう』と言うしょぼくれた好人物だった」(井上氏)。この昭和天皇の姿により、国民の中には「陛下がかわいそうだ」という感情がわき、愛着が出てきたのだという。
天皇の側近たちも、戦争責任論から遠ざけるため、天皇に対し、戦争からの「隔離政策」を徹底した。記者団とのやりとりも、戦争の影を感じるやりとりが出ると、即終了させたことがあった。これが「晩年に裏目に出た」という指摘は鋭い。1975年の会見で、戦争責任は「言葉のアヤはよく分かりません」、原爆投下も「戦争中のことですからやむを得ない」とそれぞれ答え、批判を浴びることになった。
象徴天皇制にいわば「命」を吹き込んだ平成の天皇、皇后両陛下の皇太子時代からの歩みについても解説。お二人が国民に近づく過程で、起きたバッシングを「親しみの副作用」と表現した。
井上氏は、いわゆる「富田メモ」を特報したことで2006年度に新聞協会賞を受賞。その後も皇室取材を続け、2022年度には日本記者クラブ賞を受賞した。この2つをダブル受賞するジャーナリストはそう多くない。そんな井上氏は、平成以降、皇太子妃バッシング、そして秋篠宮家へのバッシングが激しさを増す現状にこう警鐘を鳴らす。日本の天皇制が終わるとするならば、「最後は国民感情が打倒する、ということになるとおもう」。
ゲスト / Guest
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井上亮 / Makoto INOUE
ジャーナリスト
研究テーマ:戦後80年を問う
研究会回数:10