2018年06月27日 14:00 〜 15:00 10階ホール
「平成とは何だったのか」(5)短歌と世相 佐佐木幸綱・歌人・「心の花」主宰

会見メモ

朝日歌壇選者を30年務める歌人の佐佐木幸綱さんが、朝日歌壇投稿歌を中心に東日本大震災をテーマにしたものを紹介し、解説した。平成の短歌の特徴として、事件を扱ったものが多いとの印象があるという。ただし、短歌史として区切るのは、これまでの傾向から、30年よりは長い期間でとらえる方が適切だとした。

 

司会 小川記代子 日本記者クラブ企画委員(産経新聞)


会見リポート

短歌は記事にならないことを表現できる

小川 記代子 (企画委員 産経新聞社東京編集局副編集長)

 短歌からみえる平成、それはやはり、震災が大きかった。

 会場で配られたプリントには、佐佐木さんが選者を30年務める朝日歌壇への投稿歌が東日本大震災で14首、阪神淡路大震災で7首。高校生やプロ歌人の短歌も掲載されていた。

 震災や大事件があると投稿が「がーんと増える」という。「何か表現したい、というとき、短歌や俳句という身近な形式で投稿するのでしょう」。日本人の頭に、その形はしっかり刻まれている。

 大地震の間なき余震のその夜をあはれ二時間眠りたるらし

 東日本大震災の被災地であった仙台市の女性の歌である。「たいへんなときでも、ついつい寝てしまう。ニュースにならない場面の出来事や心の動きを、短歌は表現できる」

 記者はどうしても物事を記者としての目で見てしまう。「短歌はそういう立場を離れて、まったく個人の目で見る。個人の目でないと見えないものがある」という言葉は、記者ならハッとさせられるだろう。

 会場から、朝日新聞の記事中で佐佐木さんが「社会詠が減っている」と語っていることを指摘されると、「政治批判は出にくい。皮肉とか揚げ足取りになってしまっている。学生運動が盛り上がらないのもある。今の若い人は個人的なことばかり。政治を詠むのは年配の方」と説明した。2009年まで早大の教壇に立ち、「バブル後の学生は振り回されている感じがした。短歌も振り回されたというか、時代の流れに揺れ動いていた」とも話す。大局的、自立的な歌が少なくなったということか。時代の空気を短歌は映す。

 海外で話をすると、日本の新聞に歌壇俳壇欄があることに驚かれるという。海外では詩は限られた人のもので、一般の人が投稿するなど思いもよらないらしい。「三十一文字(みそひともじ)」で時代を書き留められる幸運を感じた。


ゲスト / Guest

  • 佐佐木幸綱 / Yukitsuna Sasaki

    日本 / Japan

    歌人・「心の花」主宰 / Tanka Poet, Leader of Kokorono-no-Hana Group

研究テーマ:平成とは何だったのか

研究会回数:5

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