2025年05月30日 16:00 〜 17:00 10階ホール
ピアニスト・アルゲリッチさん、能楽師・大槻文藏さん、ステファニー・アルゲリッチ監督ら 会見

会見メモ

世界的なピアニストであるマルタ・アルゲリッチさんが総監督を務める別府アルゲリッチ音楽祭が今年、25回目の節目を迎えた。

これを記念し制作したドキュメンタリー作品「Encounter 出会い」が6月3日に発売されるのを前に上映会と記者会見を開催した。

本作は、2022年5月に行われたマルタさんとシテ方観世流の人間国宝である大槻文蔵さんによる異色の共演とその舞台裏を追った映像の2部で構成される。監督はマルタさんの三女でドキュメンタリー作家のステファニー・アルゲリッチさんが担当した。

記者会見には、マルタさん、大槻さん、ステファニーさんとピアニストで別府アルゲリッチ音楽祭総合プロデューサーの伊藤京子さんが登壇。作品に込めた思いなどを語った。

大槻さんは「興味深いことは好きなたち。私が出てはぶち壊しになるのではないかと躊躇したが、巨匠であるアルゲリッチさんに是非と言われ、引き受けた」と今回の共演の経緯を説明。音源を聞き、構想を考え続け、実ることなくリハーサルの当日を迎えたと明かしたうえで、「リハーサルでびっくりした。(マルタさんが)私を音の上にのせてくれた。何の抵抗もなく音に乗ることができ、気持ちのいいものだった」と述べた。マルタさんは「能とバッハの音楽は表現方法も文化も違うが、すばらしい対話ができた。今の時代に最も大事な、人々が平和を願っているということを具現化することに近いものができた」と感想を述べるとともに、「唯一の不満は、演奏をしながらだったため、大槻さんの舞をずっと見られなかったこと」とユーモアを交え語った。

 

司会 中村正子 日本記者クラブ企画委員(時事通信社)

通訳 長井鞠子 サイマル・インターナショナル

 

※写真左から1枚目からマルタさん、大槻さん、ステファニーさん、伊藤さん


会見リポート

バッハと能 対話した瞬間

瀬崎 久見子 (日本経済新聞社社会・生活報道ユニット文化グループ)

 「能にはずっと心引かれてきた。一つだけ不満があるとすれば、私が弾いている間、文藏さんの能がほとんど見られなかったことね」。現代屈指のピアニストであるマルタ・アルゲリッチさんは、シテ方観世流能楽師の大槻文藏さんとの共演を嬉しそうに振り返る。

 総監督を務める別府アルゲリッチ音楽祭の関連企画として2022年5月末、静岡県熱海市のMOA美術館の能楽堂でバッハのパルティータ第2番を弾き、文藏さんが能を舞った。音楽祭が25回の節目を迎えた今年はこの映像作品が完成した。

 能楽界の重鎮ながら、漫画「鬼滅の刃」を能狂言にするなど新しい試みに積極的な文藏さん。それでも今回は「音源を相当、聞き込んでも、どう舞おうか一向に像を結ばなかった」と打ち明ける。しかし「リハーサルでびっくり。アルゲリッチさんが音にのせてくれて『自分は音だ。音の精なんだ』と分かった」。選んだ扮装は女面のような面に、白や金の袴などを合わせたもので「既存の能にはない、男性でも女性でもない」。その姿で時折、ピアノに耳を澄ませる姿などが映像に収められた。

 この共演をアルゲリッチさんは「異なる文化の対話。平和を願う行為でもある」と語る。それには「バッハが向いている。多くのジャンルと対話できる音楽だから」。アルゲリッチさんは1941年生まれ、文藏さんは42年生まれで、80代で現役を続ける芸術家同士でもある。

 この映像の監督はアルゲリッチさんの娘のステファニーさん。面や装束をつけるところなど、公演前の様子も撮影し「準備も含めて、能の様式美に魅入られた」と話した。


ゲスト / Guest

  • マルタ・アルゲリッチ / Martha Argerich

    ピアニスト、公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団総裁、別府アルゲリッチ音楽祭総監督

  • ステファニー・アルゲリッチ / Stephanie Argerich

    映像作家、写真家、公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団オフィシャル・フィルム・メーカー/プロデューサー

  • 大槻文藏 / Bunzou OHTSUKI

    能楽師(シテ方観世流)

  • 伊藤京子 / Kyoko ITO

    ピアニスト、公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団副理事長、別府アルゲリッチ音楽祭総合プロデューサー

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