2025年05月23日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「生成AI」(5) 坂村健・東京大学名誉教授

会見メモ

東京大学名誉教授、INIAD cHUB(東洋大学情報連携学学術実業連携機構) 機構長などを務める坂村健さんが「生成AIと大学教育」をテーマに登壇。生成AIにより大学教育がどのように変化していくのかについて、自身が機構長を務めるINIADI cHUBでの取り組みなども交え話した。

 

司会 倉澤治雄 日本記者クラブ企画委員


会見リポート

欲求と問題設定が人間の力

戸部 大 (共同通信社科学部編集委員)

 驚異的な速さで進化する生成AIが出現した現代社会で、大学教育や職場ではAIとどう向き合うべきか。さまざまな機械の中に小さなコンピューターを組み込んで制御したりデータを取得したりする基幹システム「TRON」を開発、世界標準にしたコンピューター科学の泰斗、坂村健氏は「AIと競うのではなく共創を」「人間はAIにできないことをやる」と明快だ。

 生成AIには「こうしたい」とか「こうなりたい」という欲求はなく「超有能だが究極の指示待ち君」。「これから重要なのは、問題を設定し、AIが出した答えを判断し、方向性を決定すること。上司として良い指示ができるかが問われる」という。

 「誰が指示を出しても同じということはなく、使う人により結果の質が大きく異なる。米国のトップハッカーはコードの80%をAIで書いているが、AIを使いこなせるトップハッカーだからこそできる。自分が何をやっているのか分かっているからだ。だから基礎教育は重要」とのこと。また、「AIもデータ学習を増やすほど賢くなるが、人間も専門以外の関心領域の広さが問題設定能力の向上につながる」として、歴史など教養を学ぶ重要性も指摘した。

 自ら立ち上げた東洋大学情報連携学部では、学生には初めてAIの使い方を教え、アイデア出しや調査、論文作成などにもAIを使いこなすように勧めている。

 個人的に心に刺さったのは、「社会は食料や安全、自由、金銭、権力などへのさまざまな欲望や欲求があるから消費が生まれ経済が回っている。イノベーションの原動力はチャレンジし続けること。承認欲求や金銭欲などにより人間はチャレンジし続ける。やりたいことがないAIがチャレンジすることはないので自らイノベーションは起こせない」との言葉だ。良い社会をつくりたいという欲求があれば無気力に陥る必要はないという希望の光が見えた。


ゲスト / Guest

  • 坂村健

    YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長

研究テーマ:生成AI

研究会回数:5

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