2017年02月24日 15:00 〜 16:00 10階ホール
「トランプ政権:米国と世界の行方」(5) 内海孚 元財務官 

会見メモ

日米交渉で汗をかいた元財務官。「トランプチームはどうも協力や調整を無視している」。日本の付き合い方は「バイラテラリズム(二国間)に偏しないで、G7や国際社会への配慮が必要」。「米国に親しくなりすぎず」と書いたことばは「不即不離」だった。

 

司会 軽部謙介 日本記者クラブ企画委員(時事通信)


会見リポート

日米2国間の偏重に警鐘 「不即不離」の関係を

村松 雅章 (日本経済新聞社編集局NAR編集部シニアエディター)

会見した内海孚氏は米国がドル高是正や市場開放を迫った1980年代から90年代にかけて大蔵官僚として交渉の最前線にいた。時代は巡る。今、トランプ米大統領は対米貿易黒字をやり玉に挙げ、安倍晋三首相は通商や為替での摩擦回避に腐心する。2月の首脳会談では日米経済対話の新設で合意したが、内海氏は「米国とのバイラテラリズム(2国間主義)に偏しないことが大事だ」と釘を刺した。

 

元財務官とあって為替政策についての意見には経験に裏打ちされた重みがある。日米首脳会談に先立ちトランプ大統領は「中国や日本が市場で何年も通貨安誘導を繰り広げ、米国はばかをみている」と発言。日本側は緊張したが、内海氏によると口先介入する米政府に実は具体的にマーケットを動かすような手段はないという。問題は「日本が大騒ぎすること」。円高カードをちらつかせば日本に影響を及ぼせることを学んだ米国に冷静な態度で応じるよう説く。

 

日米首脳会談に関する米欧メディアの冷ややかな報道ぶりを紹介した上で、日米経済対話の行方について「国際社会でどう正当化されるのかということに配慮してほしい」と注文した。特に「財政・金融政策は2国間で協議するものではない」と断言。「主要7カ国(G7)などを中心に進めていくことが本来の姿だ」と語り、欧州やアジアを含む多国間の対話を重視する。

 

「トランプショック」は大きかった。グローバリズムに挑戦する型破りな指導者とどう向き合うべきなのか、今なお世界中が考えあぐねている。ただ、ヒト、モノ、カネが自由に行き交うからこそ、米国にもたらされた利益もあるはずだ。保護主義をうかがわせる「アメリカファースト」に首肯してばかりでは相手のためにもならない。内海氏がゲストブックに記した言葉は「不即不離」。米国が大切なパートナーだからこそ適度な距離を保ちながら付き合っていくことが、双方の望む関係を築く秘訣だというメッセージと受け止めた。


ゲスト / Guest

  • 内海孚 / Makoto Utsumi

    日本 / Japan

    元財務官 / Former Vice Minister of Finance,

研究テーマ:トランプ政権:米国と世界の行方

研究会回数:5

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