2017年03月03日 18:00 〜 19:30 10階ホール
試写会「娘よ」

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会見リポート

カラコルム山脈に描かれる「走る悲しみ」

渡辺 良行 (毎日新聞出身)

 

2014年にノーベル平和賞を受賞したマララさん銃撃事件はまだ記憶に新しい。パキスタン出身の彼女が命をかけた「教育を受けたい」という訴えは、この国の過酷な状況を雄弁に語っていた。

 

そのパキスタンで撮られた最新の映画がこれだ。わが国で同国の映画が公開されるのは初めてだという。映画のヒロインである10歳の少女ザイナブが向き合う「敵」は、マララさんが立ち向かったイスラム過激派ではない。カラコルム山脈の麓にひしめく部族の因習である。

 

母と2人でひっそり幸せに暮らしていたザイナブだが、部族間のトラブル解決のため、「生贄」のように相手部族の長老との結婚を強いられる。しかも相手は「祖父」のような年齢。もしこの鉄の掟に逆らえば死が待っている。

 

若く美しい母アッララキは、15歳の時同じような経験をしている。「自分と同じ思いを娘に味わわせたくない」。苦渋の決断をした母は結婚式の当日、逃走という大胆な行動に出る。乾ききった砂塵の中を2人は必死に逃げる。掟から逃れ、自由をつかむために。

 

こう書くとサスペンス風だが、これは実話に基づいた映画である。メガホンを取ったのは女性監督のアフィア・ナサニエルさん。女性ゆえにもてあそばれる運命は、彼女だからこそ描ききれた。

 

それにしても、背景に広がるカラコルム山脈の美しさはどうだろう。切り立った岸壁、青い空に映える高い峰々。ひょんなことから2人を助ける若い男との道行きが映画に味を添えるが、その彼が運転するサイケデリックなトラックで山脈の中の一本道をひた走る光景は、なぜか哀愁を奏でる。

 

マララさんや、最近、失踪後初めて姿を現した「アフガンの少女」。映画を通じてこの2人に共通したザイナブの目の輝きをぜひ見てほしい。


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