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第3回アジア経済視察団(2002年11月) の記事一覧に戻る

大洋に浮かぶ小舟の国(副団長 日本経済新聞 脇祐三)2002年11月

シンガポールは、強い雨に見舞われた直後。巨費を投じて建設し、開館したばかりの総合芸術センター「エスプラネード」の雨漏りが、地元の話題になっていた。館内の劇場でミュージカル「雨に唄えば」の公演中という、絶妙のオチまで付いて。雨漏りはさておき、「ビジネスだけでなく芸術でも地域のセンターに」という政府の意気込みは、なかなかのものだ。そこに豊かさや、生活のゆとりも感じた。

 

とはいえ、昨年はマイナス成長に陥ったし、直接投資も減少気味。ゴー・チョクトン首相は会見で「どのように中国と競争していくかが問題。単純な製造業はダメ。人材を集めてハイエンド分野での競争を目指す」と語った。国立分子細胞生物研究所では、京大から助手や院生たちとともに移ってきた伊藤嘉明教授が「ここならトップの判断で高価な機材の購入もすぐに実現する。結論がいっこうに出ない日本とは対照的」と説明する。

 

「中国からの自由貿易協定のオファーは拒否できない」とい言うジョージ・ヨー貿易産業相は、「戦略的に必要な中国とのバランス」で現実に頼れるのは米国」とも語っていた。アジアで日本のプレゼンは弱まった。急速な国際環境の変化の中で、「大洋に浮かぶ小舟のような国」(ゴー・チョクトン首相)の迅速な意思決定と明確な戦略意識に触れると、日本のもたつきを改めて実感する。

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