2024年11月29日 16:00 〜 17:00 10階ホール
フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官 会見

会見メモ

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のフィリッポ・グランディ高等弁務官が3日間の訪日の締めくくりに会見に臨んだ。

紛争や迫害などによって故郷を追われた人は世界で約1億2300万人に上り「日本の総人口と同レベル」。UNHCRが緊急宣言を発した件数は、数年前の平均10件未満からこの1年で40件にのぼったという。

会見では、ウクライナ、中東・レバノン、スーダン、ミャンマーの状況とUNHCRの活動を説明した。

今回の訪日では、政府関係者のほか民間企業のトップとも面会したことを明かし、「ビジネスリーダーたちが人道活動にパートナーとして関わりたいという思いを持っていると感じた」と評価。日本政府に対しては、「国内問題に目を向ける必要もあるだろうが、外国への支援を犠牲にしないことを祈っている」と述べた。

 

司会  出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

「注目されない紛争にも目を向けて」

二村 伸 (会報委員 NHK出身)

  この1年、UNHCRが宣言した緊急事態は40件。「平和を構築できない今の世界を表わしている」と述べ、「国連安保理が機能不全に陥り、紛争が暴力的、残酷化している」と危機感を表明。同時にウクライナや中東に関心が集まる一方で、スーダンやミャンマーなどで深刻な人道危機により多くの命が失われている現状に「紛争の大小、目立つか目立たないかにかかわらず関心を持って欲しい」と訴えた。

 グランディ高等弁務官の日本記者クラブでの会見はUNRWA時代を含めて9回目。迫害や紛争により強制移動を余儀なくされた人々が1億2千万人を超え、欧州では難民排斥を掲げる右派が台頭していることへの憂慮の念がこれまで以上に強く感じられた。

 この日朝伝えられたイスラエルとレバノンの停戦合意を歓迎しながらも「停戦は紛争終結を意味しない」と紛争再燃を警戒、ガザの状況についてはUNRWAの活動を禁止する法律が施行されれば「人道支援が止まり深刻な状況に陥る」と懸念を示した。10年前までUNRWA事務局長を務め、ガザの惨状に胸を痛めている思いが伝わってきた。

 日本については、ウクライナ避難民やシリア人留学生の受け入れ、第三国定住制度によるミャンマー難民の受け入れを評価し、民間企業や市民社会の支援活動が活発化していることを歓迎した上で、「国内優先により海外への支援と資金拠出が犠牲にならないよう願っている」と要望した。

 緒方貞子元高等弁務官のもとで多くのことを学んだというグランディ氏は来年2期10年の任期を全うする。「緒方さん、前任のグテーレス現国連事務総長のような偉大なリーダーではないが、強く信頼に足る組織を後任に引き継ぐことこそが自分の任務だ」と会見を締めくくった。謙虚な人柄が滲み出る会見だった。

 翌日、公式日程を終えた高等弁務官は敬愛する緒方貞子さんの墓前に花を手向けた。


ゲスト / Guest

  • フィリッポ・グランディ / Filippo Grandi

    国連難民高等弁務官 / United Nations High Commissioner for Refugees

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