2023年09月08日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「生成AI 」(1) 中尾政之・東京大学教授

会見メモ

「ChatGPT(チャットGPT)」などの生成AIが社会的に注目を集めている。

生産技術が専門の中尾政之・東京大学教授が登壇。生成AIがどういうものなのか、現時点で何ができ、何ができないのかなどについて、様々な事例をもとに話した。

 

司会 橋本五郎 日本記者クラブ企画委員(読売新聞社)


会見リポート

生成AI「脳の拡大」として

倉澤 治雄 (企画委員 日本テレビ出身)

 「AIは『神』ではない」という中尾政之教授の一言は、生成AIの本質を突いた最も的確な表現だろう。機械設計を専門とする中尾教授は「失敗学」の専門家でもある。大規模言語モデルをベースとしたChatGPTだけでなく、画像生成AIのStable Diffusionや音楽生成AIのSOUNDRAWを「とてもよくできている」と高く評価する。

 機械設計の一般的な思考工程は、顧客のニーズをとらえる「思い」を要求機能として「言葉」で表現する上流と、それに基づいて設計として「形」に落とし込み、「モノ」として製造する下流に分類される。明治以来、大学工学部では下流ばかりを教えてきたが、専門知識の教育だけなら、「AIで十分なので東大教授も失職する」と断言する。それを承知で「上流」に生成AIを使う試みを教育現場で続けている。

 ChatGPTを初めて使った時、筆者も言いようのない「気持ち悪さ」を感じた。しかもAIは「神」ではなく、時々うそをつく。さらに「定量的」な判断は不得意だ。一方でChatGPTを「上流」に使うと、ロングテールの発想や「なるほど」と思わせる想定外のヒントが拾えることから、中尾教授は生成AIを使って「上流に手を付けよう」と呼び掛ける。

 教育に生成AIを使うことには少なからず反対の声がある。「学生が自分の頭で考えなくなる」というのがその理由である。しかし中尾教授は「生成AIは自分の脳の拡大のために使えばいい」と割り切る。「脳の拡大」として使うにはAIを使い倒さなければならない。今後はAIを使える人と使えない人の分極化が進むだろうと予測する。

 大学の役割について中尾教授は「知識を覚えさせるだけでなく、『創作』できる人間を大量生産しないとだめだ」と強調する。その秘訣が「議論(Argumentation)、仮説生成(Abduction)、共感(Empathy)である」と聞いて、人間の出番がまだ残っていることに安堵して、ようやく一息ついた。人間とAIの未来を考える息詰まるような2時間だった。


ゲスト / Guest

  • 中尾政之

    東京大学教授

研究テーマ:生成AI

研究会回数:1

ページのTOPへ