会見リポート
2025年07月31日
14:00 〜 15:30
10階ホール
「中国で何が起きているのか」(28) 西村友作・対外経済貿易大学教授
会見メモ
かつて国家が経済や社会の隅々まで介入する権威主義体制の下では、イノベーションが起こりにくいと考えられてきた。その常識を覆したのが、共産党の一党支配を貫く中国だ。金融を中心に世界が驚くデジタル・イノベーションを生み出せたのはなぜか。2000年代の初頭から北京で暮らし、現地で研究を続ける西村友作・対外経済貿易大学教授が、中国経済の現状や今後の展望を話した。
司会 高橋哲史 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)
会見リポート
弱点は「ゼロから1」生む力
五十嵐 文 (読売新聞社論説副委員長)
等身大の中国を理解するのは難しい。実力を過大に評価すれば中国脅威論に、侮れば崩壊論に陥り、どちらも実像をゆがめてしまう。
2002年から北京に住む西村さんの強みは、現地の肌感覚と、中国語で膨大な文献を読み込んで磨き上げた経済・金融の専門知識だ。中国経済の実力を正しくとらえる上で、どちらも不可欠な要素だろう。
中国では2010年代初めにスマートフォンが普及し、キャッシュレス化が一気に進んだ。こうした「中国式イノベーション」の最大の特徴は、国家主導の「挙国体制」にある、と西村さんは言う。
民間企業が新しいビジネスを始めると、政府はそれが法的にグレーゾーンであっても、社会問題の解決や消費者の役に立つようであれば黙認する。すると業界内では、中国語で「内巻」と呼ばれる熾烈な競争と淘汰が起き、勝ち残った企業のサービスや製品がやがて社会に不可欠なインフラとして定着していく仕組みである。
中国の弱点にも触れた。中国のオンライン決算に欠かせないQRコードは、もともと日本の技術だ。中国は既存の技術を結びつける応用は得意だが、ゼロから1を生み出す発明の力はまだまだ弱い。
そこで習近平政権は基礎研究費を大幅に増やし、人工知能(AI)を活用した「新質生産力」のてこ入れを図っているという。対話型AIの開発で世界をあっと言わせたディープシークなど、浙江省杭州市で誕生した「6匹の小さな竜」と呼ばれる新興6社が、新たなビジネスモデルの担い手として注目を集める。
この先、トランプ米政権の高関税政策や、中国共産党による社会統制の強化が、イノベーションを停滞させるリスクはあるだろう。一方で、西村さんが言うように、中国人には「何があってもどこであろうと生きていくしなやかな対応力」がある。これからも中国の変化を最前線から発信し続けてほしい。
ゲスト / Guest
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西村友作
対外経済貿易大学教授
研究テーマ:中国で何が起きているのか
研究会回数:28