2025年07月22日 11:00 〜 12:30 10階ホール
「中国で何が起きているのか」(27) 林載桓 ・青山学院大学教授

会見メモ

中国人民解放軍の空母が5月下旬から6月上旬にかけて太平洋に展開し、警戒していた自衛隊機に中国軍機が異常接近する事件が起きた。一方、習近平国家主席に近いとみられていた軍の幹部が次々と失脚するなど、軍内が混乱しているとの見方も絶えない。軍の内部で何が起きているのか。長く中国人民解放軍を研究してきた青山学院大学の林載桓教授に話を聞いた。

 

司会 高橋哲史 日本記者クラブ企画委員 (日本経済新聞社)


会見リポート

中国軍、進む習氏個人化

久永 健志 (西日本新聞社論説委員)

 東・南シナ海で活発な軍事活動を続ける中国。一方、軍の最高指導機関である中央軍事委員会の委員7人のうち3人が失脚または消息不明になっている。中国軍の内部で、一体何が起きているのか―。

 中国共産党と軍について長年研究している林教授は、習近平国家主席(党総書記)が進める軍事改革から解読を試みる。

 「戦える軍隊、勝てる軍隊」にするための改革を進める習氏。七つあった軍区を、外部の軍事的脅威に対応する五つの戦区に再編するなど、鄧小平氏でも成し得なかった「革命的成果」を挙げたと評価する。

 一方で、自立性が高く外部の監視が届かないといった問題を抱えていた軍に対する党の統制強化という改革は、ほとんど成果を挙げていないとみる。軍に対する統制と権威は、党ではなく党総書記である習氏個人に集中するようになった。

 軍隊統制の個人化。その弊害は人事面にも現れている。習氏個人が持ち合わせている限られた情報を基に自分のやり方で人事を決めるので、自身と関わりのある人物が要職に登用されやすい。

 登用した後で、未知の不都合な情報が入る。こうした問題が「自分が決めた人事を自分が替える」謎の失脚劇の背景にあるのかもしれない。

 個人の能力よりも習氏に対する忠誠が重視される情実人事は、将来的には軍の戦闘能力にも影響する可能性がある。習氏個人に権力が集中すればするほど、習氏と軍の不信が増すスパイラルに陥る恐れもある。

 挙げ句は、習氏以外に軍を統制できる人がいないという事態を招くかもしれない。習氏の秩序ある退場のプロセスも、結局は習氏自らがシナリオを書くべき課題なのだろう。

 こうした中国に日本はどう向き合うか。中国軍の高まる戦闘能力だけでなく、軍が内包する矛盾にも警戒が必要なように思える。


ゲスト / Guest

  • 林 載桓 / LIM Jaehwan

    青山学院大学教授 / professor, Aoyama Gakuin University

研究テーマ:中国で何が起きているのか

研究会回数:27

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