2025年07月16日 14:30 〜 16:00 10階ホール
「戦後80年を問う」(13) 小説家・詩人 池澤夏樹さん

会見メモ

1945年7月生まれ。戦後と同じ歳月を、東京、ギリシャ、沖縄、フランス、札幌、長野・安曇野と、拠点を変えながら生きてきた。

『1945年に生まれて ー池澤夏樹 語る自伝』を7月3日に刊行したばかりの池澤夏樹さんが、自身の人生を振り返るとともに、戦後80年をどうとらえているのか、交流のあったジャーナリストとの思い出、文学の役割、地球環境など多岐にわたる質問に応じた。

 

司会 尾崎真理子 日本記者クラブ企画委員


会見リポート

作中の女性 母の無念重ね

待田 晋哉 (読売新聞社文化部次長)

 国内外を旅しながら、小説や詩、エッセーなど様々な分野で活躍してきた作家の池澤夏樹さんは、現代日本文学に柔らかな一陣の風を吹き込んできた。『一九四五年に生まれて 池澤夏樹 語る自伝』(聞き手・文 尾崎真理子、岩波書店)の刊行を機に開かれた記者会見は、そのたたずまいの源に涼やかに迫った。

 強い影響を受けた作家で読売新聞元編集委員の日野啓三の記憶。ギリシャをはじめ、沖縄やフランスなど様々な場所に身を置き得たもの。2007年から個人編集の形で河出書房新社から刊行し、出版界に大きなインパクトを与えた世界文学全集と日本文学全集、東日本大震災や現代社会について―。会見は、人生と筆業を改めて振り返る場となった。

 心に残ったのは、活動の源流に母親や伯母など女性の存在があると振り返ったことだ。池澤さんの母、原條あき子は詩人として才能を嘱望されていた。夫となる福永武彦が参加したマチネ・ポエティクに同人として加わった。だが池澤さんを産んだ後に離婚し、子育てや生活に追われた。研究者だった伯母は戦後の時代に阻まれ、仕事を深められなかった。

 「気がつくと、僕はよく小説の主人公を女性にしていた。母親や伯母のできなかったことを、作中の女性にさせているのではないか。母親や伯母の無念を晴らしているのではないかと後で思わされました」

 池澤さんの作品は、かつて男性中心だった戦後日本文学の中で異なる質感を持っている。また長女の池澤春菜さんは文筆や声優の世界で活躍する。その理由の一端を感じさせた。

 戦後80年の課題については、「世界で啓蒙思想が崩れ、『王道』ではなく、『覇道』の政治家ばかりになっている。デマゴーグが世界を動かし、SNSが増幅している」と危機感をあらわにし、硬派な面を見せた。


ゲスト / Guest

  • 池澤夏樹 / Natsuki IKEZAWA

    小説家・詩人 

研究テーマ:戦後80年を問う

研究会回数:13

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