2025年09月12日 15:00 〜 16:30 10階ホール
「戦後80年を問う」(18)小和田恆・元国際司法裁判所長、元外務事務次官

会見メモ

外務事務次官、国連大使、国際司法裁判所(ICJ)の判事・所長などを務め、国際法学者でもある小和田恆さんが登壇。太平洋戦争後80年にわたる日本外交の軌跡を評価するとともに、第2次世界大戦後、国際関係が変貌する中で日本外交の立ち位置はどう変化してきたのか、国際秩序が揺らぐ中での日本外交のあり方などについて話した。

 

司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信社)


会見リポート

国家から人間中心の世界へ

福島 良典 (日本記者クラブ理事 毎日新聞社主筆)

 優れたレクチャーは秀逸な音楽や演劇と似る。聴く者を魅惑し、魂を激しく揺さぶり、余韻を残す。質疑応答を含め2時間近くに及んだ会見を聴き、そんな思いを強くした。

 中学校1年生の時に終戦を迎え、「戦後80年を振り返ることは自分の人生を振り返ることに等しい」。その言葉に続き、メディアに携わる者に投げかけられたのは、戦後80年報道への率直な違和感である。

 「国民がひどい目に遭ったことを記憶に残すことは大事です。ただ、それだけ見ていてそれでいいのか」「ビクティマイザー(加害者)としての日本をどう評価するのか」

 原点には外務省入省後、10年近く日韓の国交正常化交渉に携わった自身の経験がある。今でも「韓国との関係は本当に解決したとは言えない」と指摘する。

 本会見の白眉は、国益を守ることを使命とする外交官としての経験を踏まえつつ、国家を超えた規範・秩序を追求する国際法学者としての理想が熱く語られた点にある。

 グローバル化した世界を「グローブ(地球)の上に住む人間が『運命共同体』と自覚せざるを得ない状況」と定義する。気候変動しかり、パンデミックしかり、核リスクしかり。

 だが、自国第一を掲げる国家が立ちはだかる。ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ攻撃、トランプ米政権の高関税政策――。眼前に広がるのは大国・強国が国際法とルールを踏みにじる世界の現状だ。

 「主権平等」と「内政不干渉」の原則に基づくウェストファリア体制を超克し、主権国家に一定のたがをはめる「他律的な秩序」を構築する必要性を説く口調が熱を帯びた。

 これまでの国家中心の世界を、人間中心の世界へと変革する。そのために何ができるのか。戦後80年にあたり、日本という国家だけでなく、地球市民としての私たち一人一人に突きつけられている問いである。


ゲスト / Guest

  • 小和田恆 / Hisashi OWADA

    元国際司法裁判所所長、元外務事務次官

研究テーマ:戦後80年を問う

研究会回数:18

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