2023年07月21日 14:30 〜 16:00 10階ホール
「ジャニーズ問題から考える」(5) ビジネスと人権の観点から 蔵元左近・日本国弁護士、米国ニューヨーク州弁護士

会見メモ

国連が2011年に採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」では、企業はその取引先を含めて人権に悪影響を及ぼす事態の予防や被害軽減を図る責任があると提唱している。

弁護士の蔵元左近さんが指導原則や救済メカニズム、各国がどのように取り組んでいるのかを解説するとともに、この観点からスポンサー企業やテレビ局などがジャニーズ問題にどう向き合うべきなのかについて話した。

 

司会 田玉恵美 日本記者クラブ会員(朝日新聞)


会見リポート

放送局は再発防止に責任を

石鍋 仁美 (日本経済新聞社編集委員兼論説委員)

 ジャニーズ事務所の創業者から性加害を受けていたと元所属タレントが相次ぎ声を上げている。業界や規模を問わず企業には本来、社内でこうしたことが起きないよう努める義務がある。それに加え取引先、今回ならテレビ局などにも果たすべき役割があるのではないか。会見ではそうした「ビジネスと人権」という視点から課題の指摘と提言があった。

 2011年、国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」という文書が承認された。世界人権宣言など国際人権基準を尊重する責任を企業も負うとする内容だ。日本政府も22年にガイドラインを作り遵守を呼びかけている。文書は自社だけでなく取引先の起こす問題も視野に入れるよう求めている。

 「(同種の事件を)二度と発生させないための体制整備をジャニーズ事務所に厳しく迫る責任がテレビ局にはある」と蔵元弁護士は説く。「影響力の適切な行使」は企業の責務。1社単独で難しければ、テレビ業界全体の基本姿勢を示すよう「共同のステートメント(声明)を発してはどうか」と提案する。

 取引先の人権状況への目配りは、実はグローバル企業にとってはすでに日常業務の一環だ。衣料品では近年、中国の素材産地での人権侵害が疑われ、最終商品の輸出を米国に拒まれた例があった。

 日本のエンターテインメント業界やメディア産業は人材の調達、作品の流通とも国内に偏り、世界の流れに鈍感な面がある。さらに芸能ビジネスには未成年者が働き周囲の大人や企業が利益を得ることも多く、力関係の差から人権問題が生じやすい土壌があると蔵元氏は指摘する。

 今後、エンタメ企業が米国や韓国のように世界市場に打って出たいなら、単に人権を守るだけでなく、今より人権が守られる社会になるよう積極的に行動しなければならない。その点を改めて理解できた。


ゲスト / Guest

  • 蔵元左近 / Sakon KURAMOTO

    日本国弁護士、米国ニューヨーク州弁護士

研究テーマ:ジャニーズ問題から考える

研究会回数:5

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