会見リポート
2023年03月17日
14:00 〜 15:30
10階ホール
著者と語る『アフター・アベノミクス 異形の経済政策はいかに変質したのか 』軽部謙介・帝京大学教授
会見メモ
アベノミクスが金融政策から財政政策へと変化していった過程を描いた『アフター・アベノミクス 異形の経済政策はいかに変質したのか』(2022年12月 岩波新書)の著者、軽部謙介・帝京大学教授(元時事通信解説委員長)が、執筆の動機や植田和男日銀総裁誕生の経緯についての考察などを語った。
司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)
会見リポート
最大の「影」これからかも
松井 学 (東京新聞編集局次長)
異形の経済政策アベノミクスをどう評価するか。軽部氏は「最大の影はこれから出てくるかもしれない」という。この10年間続いた政策の副作用が現れた場合、時間の長さに比例して影響も大きくなる。うなずいて聞き、確かな警告としても受け止めた。
そもそもアベノミクスとは何だったのか。今回の岸田官邸によるサプライズ人事を経て、日銀の植田和男新体制はどのように動きだすのか。経済運営の次を見据えるには、2010年代の日本を規定したこの経済政策を官邸、財務省、日銀の関係も含めて「検証しておかなければいけないと考えた」と軽部氏は話した。
会見でも説かれたように、アベノミクスは期間中に金融政策から財政政策へと重点が変化したことが一つ特徴的だった。安倍晋三元首相が金融政策への興味を失い、財政に積極的に関与し始めたのは、物価目標2%を達成できなかったことが大きかったのだろう。その転換の舞台裏は軽部氏の近著『アフター・アベノミクス』でも詳細に描かれている。
経済政策の決め方にも特徴があった。熟議を経ずに官邸の少ない人数で決める。イデオローグたちに依拠する。政策の中身とは別に、決め方も検証の対象になるという指摘はその通りだろう。
実体経済は10年を経てどうなったかといえば、超低金利や円安では日本経済の構造変化は起こせないことが明らかになった。政府債務は増えている。安倍氏は雇用が拡大したと実績を誇ったが、実質賃金は下がった。
軽部氏は近著の執筆動機を、アベノミクスの記録を残すことだったと話した。分かっていない事実はたくさん残っていると語り、自分が書いたものを「ぜひ、上書きしてほしい」という。権力者の正史に抗して、メディア関係者が総力を挙げてファクトを残していく必要があると呼びかけた。
ゲスト / Guest
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軽部謙介 / KARUBE, Kensuke
日本 / Japan
帝京大学教授、元時事通信解説委員長 / professor, Teikyo University
研究テーマ:アフター・アベノミクス 異形の経済政策はいかに変質したのか