2023年02月13日 16:00 〜 17:30 10階ホール
「3.11から12年」(2) 福島第一原発の廃炉 吉野実・テレビ朝日記者

会見メモ

東京電力福島第一原発事故から一貫して事故収束や廃炉作業を取材してきたテレビ朝日記者の吉野実さんが登壇。昨年2月に刊行した著書『「廃炉」という幻想』の内容を中心に、廃炉の現状や課題、見通しなどについて話した。

 

司会 坪井ゆづる 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞社)


会見リポート

廃炉費用「全然足りない」

倉澤 治雄 (日本テレビ出身)

 東京電力福島第一原発事故から12年、発生当時から取材を継続する記者の数はめっきり減った。数少ない記者のひとりである吉野さんは昨年2月、福島第一原発(1F)の廃炉問題に切り込んだ著書『「廃炉」という幻想』を世に問うた。用意された51枚のスライドは、福島第一原発の現状を的確に表していた。吉野さんは福島県での「災害関連死」2333人について、原発事故の際に最も重要な「避難計画」が機能せず、「役人の怠慢が被害を拡大したのです」と切り出した。

 1F最大の課題は溶け落ちた約880トンの燃料デブリである。線量が高く、極めて危険なデブリが格納容器のどこにどれだけあるのか、依然、不明のままだ。中長期ロードマップによると廃炉までに残された時間は28年である。取り出し方法が二転三転する中、吉野さんは「毎日10キログラムずつ取り出しても241年かかる計算です」と指摘、「28年で取り出すというのは大うそです」と舌鋒鋭く批判する。

 また汚染水を処理した後に残る「ALPSスラリー」を貯留するHICと呼ばれる容器のいくつかが、すでに破壊限界に達している。容器の詰め替えは進まず、吉野さんは今後大問題となるだろうと予測する。さらに最大780万トンに上る1Fから出る放射性廃棄物の処分や1400万立方メートルの「除染土」を「県外処分する」案についても、ほとんど進捗が見られていない。

 廃炉費用にも切り込む。「廃炉」「除染」「損害賠償」を合わせた廃炉費用は現在22兆円と政府は試算するが、吉野さんは算定根拠を明確にしたうえで、「全然足りない」と指摘する。

 原子力緊急事態宣言は依然、解除されていない。こうした中、岸田政権は原発回帰に大きく舵を切った。60年を超える運転期間の延長について問われると、吉野さんは「安全性と根拠を示してゆっくり進めるべきです」と語って会見を締めくくった。


ゲスト / Guest

  • 吉野実 / Minoru YOSHINO

    テレビ朝日社会部記者

研究テーマ:3.11から12年

研究会回数:2

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