会見リポート
2019年11月11日
15:00 〜 16:00
10階ホール
山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所長 会見
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会見リポート
研究支援減額に危機感
安藤 淳 (日本経済新聞社編集委員兼論説委員)
新薬開発には膨大な時間とコストがかかる。基礎研究から動物実験、ヒトでの試験へと段階的に進み、安全性と有効性を十分に確認する必要があるからだ。iPS細胞を使う新技術なら、なおさらだ。しかし、それをなかなか分かってもらえないという焦りといら立ちが伝わってくる会見だった。
iPS細胞は皮膚や血液の細胞から容易に作れ、体の様々な細胞や組織に成長する能力をもつ。山中教授は2006年にマウスで、07年にはヒトで作製に成功し、12年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。病気の組織を補ったり置き換えたりする再生医療用や、新薬開発のツールとして期待が高まった。
文部科学省は10年間で約1100億円を再生医療に投ずると決定、14年にはiPS細胞を使って目の難病を治す再生医療が始まった。順風満帆に見えるが、実態は違うという。他人の体内に入れても拒絶反応が起きにくく、品質の安定したiPS細胞をいつでも使えるよう備蓄しておく「iPS細胞ストック」事業の先行きに不安が生じている。
山中教授によると、同事業に関していくつも誤解がある。一つは、受精卵から作る胚性幹細胞(ES細胞)を免疫抑制剤と共に使えばストックは不要という説だ。高齢者などでは免疫抑制剤が体に大きな負担を与え、iPS細胞の方がリスクを低減できると反論した。京大iPS細胞研究所はカネ余り状態だという批判については、競争的資金で研究費を賄っているが組織運営費が足りず苦しいと打ち明けた。
今後、ストック事業は公益財団に移管し寄付金などを運営費にあてる。20年間くらいは資金を確保できるメドをつけておきたいという。政府内で国の支援を減らす、もしくは打ち切る案が出ていることについて聞かれると、「寄付があるから国はお金を出さなくても大丈夫となったら、誰も寄付を集めなくなる。やめていただきたい」と語気を強めた。iPS医療普及にとって、今が正念場。育ってきた芽をつぶしてはいけない。
ゲスト / Guest
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山中伸弥 / Shinya Yamanaka
京都大学iPS細胞研究所所長 / director, The Center for iPS Cell Research and Application (CiRA), Kyoto University