会見リポート
2018年11月02日
15:00 〜 16:00
10階ホール
「平成とは何だったのか」(12) 俵万智・歌人
会見メモ
司会 尾崎真理子 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)
会見リポート
平成の言文一致の先駆け的存在
柴崎 信三 (日本経済新聞社出身)
歌集「サラダ記念日」が260万部のベストセラーとなって間もない頃、インタビューしたことがある。
神奈川県立橋本高校の国語科の教員で、指定の場所は職場に近いJR橋本駅前の可愛らしいカフェ。25歳の歌人はパンと野菜の入った買い物袋を手にしてあらわれた。
「万葉集もなんのその、与謝野晶子以来の大型新人類歌人誕生!」
これがその時の歌集の帯のキャッチコピー、書いた写真入りの連載コラムには「軽さと破調、キラリ三十一文字」という見出しがついた。
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
七夕の前夜、若い娘が自分の恋に手料理の思い出を重ねて詠んだ一首を作家の丸谷才一が「平安朝の女房みたいな才覚」と手放しで讃えた。
バブル経済の熱気が漂う昭和の末年の記憶だから、「なだらかな右肩下がり」と俵万智が振り返る平成の30年はそこから続いている。
変わらないショートカットと愛嬌のある表情は30年の歳月を感じさせないが、平成という時間には人生と世相の曲折が映し出されている。
角川短歌賞などを受賞したほか、戯曲や小説などでも活躍するなかで、40歳の時に母親となった。仙台市に住んでいた2011年に東日本大震災に遭遇し、安全を求めて母子で沖縄県石垣島に移住した。
子を連れて西へ西へと逃げてゆく愚かな母と言うならば言え
「サザンオールスターズ」や「東急ハンズ」や「缶チューハイ」など、時代を彩る固有名詞が活躍する「ライトヴァースの歌人」は健在だ。
30年の最も大きな変化として、携帯・スマホの普及が書き言葉と話し言葉を限りなく接近させていることをあげた。然り。思えば俵万智はその先駆けではなかったか。
三十一文字のリズムに守られた短詩文芸の伝統を超えて、国民的なエンターテイナーを期待したい。中島みゆきや松任谷由実のような。
ゲスト / Guest
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俵万智 / Machi Tawara
歌人 / Tanka Poet
研究テーマ:平成とは何だったのか
研究会回数:12