2025年10月15日 15:00 〜 16:00 10階ホール
フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官 会見

会見メモ

2016年1月に国連難民高等弁務官に就任し、今年末に退任するフィリップ・グランディさんが会見した。米国のトランプ大統領による対外支援の削減など、UNHCRを取り巻く環境は厳しさを増す。国際的な支援の重要性も高まる中で、難民問題の現状、今後の支援の在り方などについて話すとともに、10年におよぶ在任期間を振り返った。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)

通訳 熊野里砂


会見リポート

対外援助の減少「破滅的」

大内 佐紀 (企画委員 読売新聞社調査研究本部研究員)

 「人道支援は重大な危機に直面している。今年はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)にとっても最も厳しい年の一つだ」――。2期10年の任期の終わりを年末に控えたグランディ難民高等弁務官の表情はさえず、記者会見での発言には切迫感がにじんだ。

 ウクライナ、アフガニスタン、スーダンなど世界各地で紛争が同時多発的に続き、住まいを追われた人は1億2000万人を超えた。しかし、トランプ米政権は対外援助に大なたをふるう。日仏独など主要ドナー国からの拠出の目減りも深刻だ。UNHCRが得た拠出も去年の約50億㌦から今年は35億㌦に大幅減で、現場での支援活動にも影響が及ぶ。

 「人道・開発支援を削減することは戦略的な誤りだ。対外支援は人命を救い、安定をもたらす。安定はビジネスにも不可欠だ」と強調したが、一方で昨今の状況は「破滅的」との現状認識がある。ドナー国がどこに援助を出すかについて「国益にからめて判断し、援助が戦略的に重要な国にのみ向かう傾向が強まるだろう」と、世界から「忘れられた国」が増えることへの懸念も強い。

 「40年間にわたるエイド・ワーカー(援助要員)」と自らを表したグランディ氏は、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のトップやUNAMA(国連アフガニスタン支援ミッション)の特別代表代行も務めた国連人だ。それだけに、国連をはじめとする多国間の枠組みの弱体化を憂える気持ちも伝わってきた。

 そんな会見を見ながら、ちょうど四半世紀前、同じ任にあった緒方貞子氏が「フィリッポはビジョンと実行力を兼ね備えた人」と嬉しそうに話していたことを思い出した。

 国連人として一番嬉しかったこと、つらかったことを聞いた。前者は「故郷に平和が戻り、帰還できた人々の笑顔を見ること」。後者は「人が苦しむのを目の当たりにすること」。そんな答えが返ってきた。


ゲスト / Guest

  • フィリッポ・グランディ / Filippo Grandi

    国連難民高等弁務官 / United Nations High Commissioner for Refugees

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