会見リポート
2025年10月27日
16:00 〜 17:30
10階ホール
大鳥精司・国立大学病院長会議会長ら 会見
会見メモ
国立大学病院の経営危機が深刻化している。2024年度は全国42病院のうち約7割が経常赤字に陥り、その額は合計で286億円と過去最悪となった。このほど発表した2025年度の収支見通しでは、赤字幅はさらに拡大、全体で400億円超の経常赤字になる可能性があるとした。
昨今の物価高騰で病院経営は厳しい環境に置かれる。中でも大学病院は、先端医療の提供だけでなく「教育」や「研究」、さらには地域の病院に対する医師派遣機能も担う。
国立大学病院長会議の大鳥精司会長(千葉大学病院長)、髙折晃史・京都大学病院長、椎名浩昭・島根大学病院長、塩﨑英司・国立大学病院長会議理事・事務局長が会見し、国立大学病院の意義や役割、経営状態などについて説明。「経営改善の自己努力だけでは限界。大学病院機能は維持できない」と窮状を訴えた。
司会 行方史郎 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞社)
写真左から大鳥さん、髙折さん、椎名さん、塩﨑さん
会見リポート
「もはや限界」
迫田 朋子 (NHK出身)
大学病院という存在をトータルに理解するのは難しい。
会見も、大学病院の概要の説明から始まった。診療だけではなく、医師の教育、新しい治療や薬の開発研究、そして地域の医療機関への医師の派遣など、担っている役割は多様だ。その機能が維持できなくなる、という訴えだった。
患者一人当たりの入院日数を減らし医師の給与や研究を犠牲にして、今の医療制度と大学法人化のメリットを生かして「この20年よくもった」が「船は沈みつつありもはや限界」というのが国立大学病院長会議事務局長の塩﨑氏の言葉だ。今年度は400億円の赤字が見込まれるという。会長で千葉大学病院長の大鳥氏はこのままいくと医学部以外の大学全体の経営にも影響を与えかねないと危惧する。やはり赤字をかかえる県立病院などとの合併も視野にいれなくてはならないとまで言及した。
さまざまな矛盾が凝縮している。
物価高騰と人件費の上昇で病院経営が厳しくなっているうえに、収益とは合わない最先端医療、働き方改革とは見合わない医師の育成や地域医療の現状、臨床研修制度の導入で医局の力が弱くなり選択の幅がひろがった結果の診療科や地域による医師偏在も強く指摘される。さらには地域によって役割の濃淡があり、国立大学病院といっても一律ではなく京大、島根大の病院長が出席したことの意味もよくわかる。
それでも3人の病院長は、大学病院は「最後のとりで」と口をそろえた。治療法がないと言われる病気やさまざまな合併症などで他の病院でみられない患者を受け入れ、未来の医療を開発し、地域に貢献する、と胸をはる。多様な機能をどう切り分け担うのか、文科省、厚労省、地方自治体からの支援はどうあるべきか、など論点はさまざまあるが、そのためにも、大学病院がそれぞれの地域でどんな役割を果たしているのか、ひとびとの理解を深めることが重要だと感じた。
ゲスト / Guest
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大鳥精司 / Seiji OHTORI
国立大学病院長会議会長、千葉大学病院長
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髙折晃史 / Akifumi TAKAORI
京都大学病院長
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椎名浩昭 / Hiroaki SHIINA
島根大学病院長
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塩﨑英司 / Eiji SHIOZAKI
国立大学病院長会議理事・事務局長
