会見リポート
2025年10月30日
14:00 〜 15:30
9階会見場
「新冷戦下の世界とアジア」 白石隆・熊本県立大学特別栄誉教授
会見メモ
米国と中国の対立は「新冷戦」とも呼ぶべき世界の分断を生み出している。トランプ大統領の米国、習近平国家主席の中国はそれぞれ内側に不安定さを抱えながら、新たな国際秩序づくりで主導権争いを繰り広げている。シリーズ「中国で何が起きているのか」の番外編として、アジア研究家で熊本県立大学の白石隆特別栄誉教授に、新冷戦の下で世界とアジアはどこに向かうのかを聞いた。
司会 高橋哲史 日本記者クラブ企画委員 (日本経済新聞社)
会見リポート
「新冷戦の趨勢」 5年後に
高橋 徹 (日本経済新聞社上級論説委員兼編集委員)
通商摩擦から始まったいまの米中対立は、軍事・経済両面の安全保障を巡るせめぎ合いにエスカレートした。いわゆる「新冷戦」の構図だ。不確実性が増す世界は、どこへ向かうのか。白石氏の話を聞き、その方向性が浮かび上がってきた。
大きな潮流を読む手助けは、会見冒頭に紹介されたデータだ。この四半世紀の間に、世界の国内総生産(GDP)に占める米中両国の割合は33.5%から43.1%へ高まった。「米中関係が緊張すれば新冷戦が起きる。単純な理屈だ」という。
因数分解した内訳がさらに興味深い。30%→26.5%へ目減りした米国に対し、中国は3.5%→16.6%に伸びた。急激に追い上げているものの、米国が2008年のリーマン・ショック後に底打ちして回復基調にあるのに、中国は20年をピークに下降気味だ。再び差が広がるのか、それとも縮まるのかは、新冷戦の行方を左右する。「5年後には趨勢がはっきりする」と白石氏はみる。
他方、新興国・途上国は21%から41.2%へ倍増した。ただグローバル化を先導してきた米国が、トランプ政権下で高関税政策のような極端な保護主義に走ったことで、新興国の台頭もまた転機を迎えている。
全体的に強権政治への逆行が目につく新興国にとって、右肩上がりの経済発展は自国民とのある種の社会契約だった。その前提が揺らぐ意味合いを理解するには、各国の政治、経済、社会の状況をきめ細かく追っていくしかない。「グローバルサウスはひとつではなく、ひとつひとつ」という視座に共感を覚えた。
既存の国際秩序は①パクス・アメリカーナ②ドル基軸と自由貿易③民主主義④市場経済――という4つの制度的な柱によって支えられてきた。トランプ政権下でそのすべてが揺らいでいる、という白石氏の指摘に、世界が直面する危機の根深さを再認識せずにはいられなかった。
ゲスト / Guest
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白石隆 / Takashi Shiraishi
熊本県立大学特別栄誉教授 / Honorable Emeritus Professor,prefectural university of kumamoto
研究テーマ:中国で何が起きているのか 番外編
