会見リポート
2018年04月03日
15:00 〜 16:30
10階ホール
「AI翻訳技術のいまと東京五輪への展望」隅田英一郎 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)フェロー
会見メモ
人工知能(AI)による翻訳、同時通訳技術を開発しているNICTの隅田フェローが、開発の現状や翻訳・通訳の仕組み、今後の展望について話した。音声通訳・翻訳アプリ「ボイストラ」による日本語-中国語、日本語-英語音声通訳の実演も行った。
情報通信研究機構 先進的音声翻訳研究開発推進センター(ASTREC)
司会 上田俊英 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)
会見リポート
音声自動翻訳の「春」
上田 俊英 (企画委員 朝日新聞社編集委員)
音声自動翻訳の開発に携わり、30年余。「長い冬を経験しているので、ここで春が来て、大ブレークすることを願っています」。その言葉に、ここまでの苦労がみえた。
開発した「ボイストラ」は現在、31言語を翻訳できる。このうち、音声入力できるのが23言語、音声出力までできるのが17言語だ。
日本を訪れる外国人観光客は、2015年には2000万人に迫り、東京五輪が開かれる20年には4000万人を超えると予測されている。「日本を、言葉の壁がなくなっている世界にしませんか」。開発の重要性を、そう説明する。
音声自動翻訳が「人間をしのぐ高精度」を達成しつつあるのは、人工知能(AI)の進化のたまものだ。AIに膨大な数の原文と訳文を覚えさせると、だんだんなめらかな訳を出力できるようになる。いまの「実力」は、TOEICで900点以上。「大部分の日本人は、勝てません」
限界もある。たとえば文学作品の翻訳。シェークスピアの『ハムレット』の有名なくだり「To be,or not to be」を、坪内逍遥は「世に在る、世に在らぬ」、松岡和子は「生きてとどまるか、消えてなくなるか」と訳した。
機械にできるのか。会場からの質問に「われわれは芸術に触れることはしません。そこは聖域。人間の方々に任せるというポジションで仕事をしています」と応じた。
性能向上のカギは、原文と訳文からなるデータの収集。このため「翻訳バンク」をつくり、現在、50組織からデータの「寄付」を得ている。音声自動翻訳の「お試し」ができるソフトをサーバーに載せ、無料で使ってもらう試みも始めるそうだ。
「グーグル翻訳」などとの競争は熾烈だが、「みんなで切削琢磨して、すごくいいものをつくりたい。2020年には間に合わせたい」。
ゴールまで、あと2年である。
ゲスト / Guest
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隅田英一郎 / Eiichiro Sumita
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)フェロー / fellow, National Institute of Information and Communication Technology
研究テーマ:AI翻訳技術のいまと東京五輪への展望