2019年02月18日 16:30 〜 17:30 10階ホール
葛西健・世界保健機関西太平洋地域事務局長 会見

会見メモ

2月1日に就任。最大の課題は感染症対策。「西太平洋地域は直近4回のパンデミックのうち3回で震源地に。対応能力は高まったが、人やモノの移動が急増し引き続きリスクは高い」。一方で「生活習慣病リスクの高まりなど変化への対応が必要」と新たな課題も。

司会 宮田一雄 日本記者クラブ会員

 

世界保健機関西太平洋地域事務局


会見リポート

健康意識に世界とのズレ 国の呼び掛け必要

前田 有貴子 (共同通信社科学部)

 葛西氏は日本や中国、オーストラリアなど西太平洋地域にある37の国と地域に暮らす19億人の健康を守る保健政策の司令塔。技術革新や急速な高齢化に伴って格差が広がるなど「世界で最もダイナミックに変化している地域」という。フィジーやキリバスなど南の島では成人の8割が肥満で、生活習慣病の問題が喫緊の課題だとし、すべての人が医療にアクセスできる国民皆保険を念頭に「日本の経験や技術を積極的に活用したい」と意気込む。

 反対に世界から見た日本の課題も指摘。葛西氏がまず挙げたのは受動喫煙問題だ。男性の喫煙率は低下しているものの、他人の体に害を及ぼす受動喫煙についてはとりわけ「感度が低い」と指摘。子どもや店員のそばでたばこを吸う場面はとても奇異に感じるという。実際に昨年の健康増進法改正では、愛煙家の議員や飲食業界が強硬に反発し、規制対象が大幅に後退した経緯があるし、今でも灰皿がある居酒屋は多い。世界とのズレを埋める努力が必要と感じた。

 また子宮頸がんワクチンにも言及。日本では定期接種後に副作用の訴えが相次ぎ積極的な勧奨が止まっているが「予防接種は公衆衛生上、最も効果的なツール」と強調。早期にワクチンを導入したオーストラリアでは子宮頸がん制圧の可能性が見えてきたことを紹介し「もう一度状況を見直して、対策に取り組んでほしい」と訴えた。喫緊の課題だが専門家がいくら訴えても、国の積極的な呼び掛けがなければ、日本の接種率向上は難しいだろうとも感じた。

 この地域は新型肺炎(SARS)などを経験しており「パンデミックの震源地」という。そんな中、薬が効かない薬剤耐性菌が世界で広がりつつある問題は深刻だ。葛西氏は「次のインフルエンザ・パンデミックは薬が効かないことで相当の被害を受けるだろう」と予想する。日頃からの薬との付き合い方が被害の大きさを変える。肝に命じたい。


ゲスト / Guest

  • 葛西健 / Takeshi Kasai

    世界保健機関西太平洋地域事務局長 / World Health Organization (WHO) Regional Director for the Western Pacific

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