2016年06月07日 18:00 〜 20:00 10階ホール
日本記者クラブ賞受賞記念講演会 尾崎真理子 読売新聞東京本社文化部長/ジャーナリスト 堀川惠子氏

会見メモ

2016年度日本記者クラブ賞を受賞した尾崎真理子 読売新聞編集委員と特別賞を受賞したジャーナリストの堀川惠子氏が講演し、会場からの質問に答えた。
司会 土生修一 日本記者クラブ事務局長
受賞理由、歴代受賞者
尾崎真理子氏 日本記者クラブ会見動画(2015/5/21)
堀川惠子氏 日本記者クラブ会見動画(2015/8/4)
『ひみつの王国』新潮社ページ
『原爆供養塔』文藝春秋ページ

YouTube会見動画

会見詳録


会見リポート

女性記者の受賞が増えそうな予感

千野 境子 (元産経新聞論説委員長)

-シンプルに直観する能力を研ぎ澄ます 尾崎真理子さん
-10年、20年後の誰かに向け爪を立てておく 堀川惠子さん

 

今年度の日本記者クラブ賞を受賞した読売新聞社編集委員の尾崎真理子さんと、同特別賞のジャーナリスト・堀川惠子さんの受賞記念講演会が6月7日夜、プレスセンター10階ホールで開かれた。

 

尾崎さんは講演の前半、受賞対象である『ひみつの王国 評伝 石井桃子』(新潮社)の中から終戦後、友人と宮城県で始めた農業・酪農の開墾生活の時代に焦点を当てた。

 

「お国のため(戦争協力)への贖罪意識ではないかと本に書いたが、喜びも楽しみもあったのでは」と、その先駆的な仕事観や自立の意志の強さなどを指摘した上で「本人も意識しなかった先見性」と評価した。

 

後半は文芸記者編。村上春樹の『1Q84』や川上弘美の近作、津島佑子の遺作など同時代の作家を取り上げながら、「作家とは、直観力があり想像力を駆使し時代全体を引き受ける存在」と位置づけ、自らも「シンプルに直観する能力を研ぎ澄まし、同時代の重要な人に聞き、次の時代に伝えたい」と抱負を述べた。

 

そして作品に託して、活字文化の重要性と復権を語る中で、石井の《いのちがけの仕事が「文化」》の言葉を引いたところに、単なる共感以上の今後に期す文芸記者としての尾崎さんの覚悟のほどを感じた。

 

用意した緻密な草稿を元に話を進めた尾崎さんに対して、「私は台本なしで…」と切り出した堀川さんは、広島での民放記者12年とフリー12年の足跡をたどり、取材の醍醐味や面白さを歯切れよく語った。

 

「尾崎さんは小説家は現実世界の違和感を、私の言葉で言えば〝消化していく〟作業と言われたが、ジャーナリストはファクトを探し、積み重ねること、この1点」

 

「(仕事で)女として困ったこと、損をしたことはない。尾崎さんたち先輩が進路を開いてくれた」

 

「ラッキーの1つは警察担当の3年間に尽きると思う」―等々、記者としての原体験や信念、さらには満足感も伝わり、若手記者たちに聞かせたいような中身でもあった。

 

特別賞の『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』(文藝春秋)は気になりながら長く放置していたテーマで、戦後70年たち遺骨の身元探しを始めた。原稿に「形容詞を使わない」と決めた。「3~4千度の熱さに焼かれるとはどういうことか。書けば書くほど嘘になる」から。遺骨には沖縄の兵士や和歌山の看護婦もあり「日本の縮図が広島にあった」が、それは市史にもまだ書かれていない側面だ。

 

本を出して社会がすぐ変わるわけではない。「でも爪を立てておくと、10年、20年後に誰かがやってくれるかもしれない」。「取材に終わりはなく、これからも続けてまいりたい」と決意表明のように講演を終えた。

 

質疑応答は割愛するので記者クラブのホームページにぜひアクセスを。

 

2人の有無を言わさぬ仕事ぶりと、参加者の共感とがハーモナイズしたような会場。男女雇用均等法も支局勤務もサツ回りもない時代に記者となった筆者にとっても、女性記者の受賞が今後確実に増えることを予感させる愉快な一夜でした。


ゲスト / Guest

  • 尾崎真理子 読売新聞編集委員/ジャーナリスト 堀川惠子氏 / Mariko Ozaki, Editorial Writer, Yomiuri Shimbun / Keiko Horikawa, Journalist

    日本 / Japan

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