2025年09月11日 14:00 〜 15:30 9階会見場
「中国で何が起きているのか」(29) 興梠一郎・神田外語大学教授

会見メモ

中国の習近平氏に近いとみられていた人民解放軍の幹部が、相次いで失脚し、習近平国家主席の権力基盤が揺らいでいるのではないか、との観測が一部で浮上している。こうした動きをどう読み解けばいいのか。中国共産党の重要会議である第20期中央委員会第4回全体会議(4中全会)を10月に控え、神田外語大学の興梠一郎(こうろぎ・いちろう)さんが中国の政治、経済、外交について話した。

 

司会 高橋哲史 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)


会見リポート

外交と経済「股裂き状態」

小川 直樹 (読売新聞社編集委員)

 中国の政治・経済の現場で何が起きているのかを正確に見極めるのは難しい。政策決定過程はブラックボックスであり、公式統計がどこまで経済の実態を示しているのかも判然としない。

 ただし、手がかりはある。現代中国論が専門の興梠氏が勧めるのは、中国共産党機関紙・人民日報の「逆読み」だ。

 例えば、7月31日付人民日報。中国共産党政治局会議で強調された「法と規則に基づき企業の無秩序な競争を管理する」の一文からは、電気自動車(EV)などの値下げ合戦の激化によるデフレを懸念している様子が読み取れる。「衝撃が大きい貿易会社を援助し、融資の支援を強化する」の一文からは、米中対立で企業が打撃を受けていること、銀行があまり融資をしていないことがわかる。

 米国が「プロパガンダ機関」と認定した人民日報も、記事中の党中央の指示を丹念に読み解けば、何が問題になっているか把握することができるという。

 掲載写真も重要な情報だ。北京で開かれた軍事パレードを報じた9月4日付の人民日報は、習近平国家主席を大きく扱い、権力基盤に揺らぎがないことを示しつつ、習氏とロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が並んで歩く写真を掲載した。

 「同志」を左右に従え、政治的には心地よかったのかもしれない。だが、経済的にみるとどうか。中国の最大の貿易相手国は米国であり、ロシアと北朝鮮ではない。興梠氏は中国の政治・外交と経済は「股裂き状態にある」と評した。

 景気を良くしたいのに一番のビジネス相手とけんかする。投資を呼び込みたいのにウクライナを侵略する国と、派兵して侵略を支援する国と親密さをアピールする。企業や投資家の警戒感や嫌悪感を高め、経済の足を引っ張ることは間違いない。

 これは中国国民にとって良いことなのか。興梠氏が発した問いは重い。


ゲスト / Guest

  • 興梠一郎 / Ichiro KOROGI

    神田外語大学教授 / professor, Kanda University

研究テーマ:「中国で何が起きているのか」

研究会回数:29

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