2024年10月02日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「自治体消滅にあらがう」(4) 辻琢也・一橋大学大学院教授

会見メモ

住民の転入者・転出者数をそれぞれ表す「社会増減率」を指標に、各都道府県や諸外国の出生率と社会増減の傾向・人口規模を安定的に維持してきた日本の自治体に関する考察・富山市の合併検証・広域行政の展開について言及した。

各地方から都市圏に進学・就職で出ていく子どもが一定数存在する。子どもが多い=社会減になりやすい前提がある。その中で、沖縄のように出生率も安定し、年齢を重ねても出身地に留まる循環ができていることで、社会減を防ぎ、人口が安定している自治体の例に関する話もあった。

行政面に関しては、地方税の申告や申請、納税をインターネット上で行えるeLTAX(エルタックス)のシステムに係る紹介もあった。

 

司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員 (時事通信社)


会見リポート

出生率向上へ「最後の10年」

織田 晋太郎 (時事通信社 iJAMP編成部編集委員)

 日本の総人口が今後急速に減少することが見込まれる中、その影響をどう緩和することができるのか。辻教授は、合計特殊出生率が高い沖縄県に注目する。

 一般的に所得が増加すれば出生率は下がる傾向にある。沖縄は本土復帰後、経済成長とともに出生率が急速に低下し、本土並みの水準に近づいていった。

 しかし、2000年代以降、その差を維持、もしくは拡大する形で、出生率が反転しており、沖縄県の出生率の高さを単純に経済発展の遅れに帰すことはできないと辻教授は語る。2045年時点で15年の人口水準をほぼ維持できるのは、東京都と沖縄県のみと推計されているという。

 特に、県都・那覇市から地理的に離れていながら、経済成長と人口増を遂げているのが石垣市だ。観光産業に強みを持つ同市は、市南部にコンパクトな市街地が形成されており、にぎわいを維持しやすい特徴がある。

 こうした地方自治体の事例分析を通じて、辻教授は「人口を持続的に推移させるためには、2%前後の高い出生率を実現しながら、社会増減をゼロ程度に抑制するという戦略が現実的」との結論を導く。

 とはいえ、都市構造の集約化は住宅価格の高騰をもたらしやすく、所得能力に制限がある子育て世帯の定住に逆行する可能性がある。また、親世代・子世代ともに短期的には少子化の恩恵を享受している面があり、出生率向上につながる妙手はないのが実情だ。

 辻教授は「将来負担を意識しながら、個人の希望にも逆行することなく、大胆な自然動態対策を講じることができるかがポイントの1つ」と語る。

 初代地方創生担当相を務めた石破茂首相は、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を設置する方針を掲げた。「これから10年が最後の踊り場」(辻教授)とされる中、前政権の「デジタル田園都市国家構想」の看板を単に掛け替えただけに終わらない政策が求められている。


ゲスト / Guest

  • 辻琢也 / Takuya TSUJI

    一橋大大学院教授 / Professor of Graduate School of Law, Hitotsubashi Unversity

研究テーマ:自治体消滅にあらがう

研究会回数:4

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