2023年10月11日 14:30 〜 16:00 10階ホール
「生成AI」(2) 酒井邦嘉・東京大学大学院教授

会見メモ

言語脳科学が専門の酒井邦嘉・東京大学大学院教授が登壇。生成AIを教育現場で活用することの課題、規制の必要性などについて語った。

 

司会 倉澤治雄 日本記者クラブ企画委員


会見リポート

「人間軽視」と警鐘鳴らす

隅谷 真 (読売新聞社社会部)

 生成AIが人類を豊かにする――。そんな期待を真っ向から否定する論客は、教育を念頭に、その危険性に関する十分な議論が尽くされないまま生成AIが普及するのは「文明衰退の一歩だ」と訴えた。

 「人間軽視に対する警鐘」を副題に会見に臨んだ言語脳科学者の酒井邦嘉氏は、脳や心がどういう特性を持っているかについて、学問的に十分理解できていない段階で極端な機械化を進めるのは「非常に危険だ」と指摘する。

 インターネット検索エンジンの登場で、学生たちが言葉の意味や文脈を考えることなく検索に頼るようになっているといい、「自ら考え解釈し、そこから新しいものを作る力が低下している。それに輪をかけて文章力がなくなれば、あらゆる教科で学力が落ちることになる」と訴えた。

 また、学生の生成AIの利用はカンニングやスポーツのドーピングと同じで、「教育現場で使わせる発想自体がおかしい」と強調。教科書のデジタル化を例に挙げ、「教育に機械を入れることには相当な議論とマイナス効果の検証が必要だ。教員の負担軽減の名の下に、カンニングを推奨することになる」と語った。

 「人間が考えなくて済むための生成AIは不要だ」という酒井氏は、教育の基本を「とにかく自分で考えること、相手が考えたものを尊重することに尽きる」とし、技術の発展とは無関係に、「非常にクラシカルな方法だが、テキストに頼らず対話をやる。教育でそれを維持することが重要だ」と提言した。

 だが、生成AIの開発・普及に政府は前のめりだ。毒をあおり徐々に死を迎えたソクラテスに触れた酒井氏は、会見の最後をこう締めくくった。「我々が機械化によって起きている現象と似ている。末梢から力を奪われ、最終的に人間らしい、言葉を発する能力や考える能力が機械に奪われる。これが文明の衰退だ」


ゲスト / Guest

  • 酒井邦嘉 / Kuniyoshi SAKAI

    東京大学大学院教授 / professor, Graduate School of Arts and Sciences, Tokyo University

研究テーマ:生成AI

研究会回数:2

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