2023年09月04日 15:30 〜 18:45 10階ホール
試写会「過去負う者」/舩橋淳監督、名執雅子・元法務省矯正局長 会見

会見メモ

日本の刑務所を満期で出所した人が5年以内に再犯し、再び入所する確率は約50%とされる。

背景には、再入所者の7割が無職だったという事実があり、元受刑者は就労しづらいという問題が大きく横たわる。

元受刑者の採用を支援する実在の就職情報誌「Chance!!」の活動にヒントを得て、元受刑者の更生とそれを社会がどう受け止め受け入れていくのかを描き出した劇映画「過去負う者」の試写会とあわせ、監督の舩橋淳さん(写真8枚目)と名執雅子・元法務省矯正局長(同9枚目)が会見した。

 写真11枚目は映画の出演した俳優のみなさん。

 

司会 江川紹子 日本記者クラブ企画委員(フリージャーナリスト)


会見リポート

温和な「無寛容」がうむ凶暴性

猪熊 律子 (企画委員 読売新聞社編集委員)

 「刑務所満期出所者が5年以内に再犯し、再び入所する率は約50%。『世界一安全な国』を標榜しながら、一体、なぜ出所者は再び罪を犯してしまうのか?」と映画のパンフレットにある。

 背景には「就労」の問題があるとして、福島原発事故避難者を描いた作品などで知られる舩橋淳監督が、実在する受刑者向け就職情報誌の活動をヒントに、元受刑者の更生と社会の葛藤を映画化した。

 ユニークなのは、この映画で使われた手法だ。台本はなく、それまでに得た知識や資料を基に俳優がその場で台詞を考える。俳優と一緒に演技を煮詰める様子を、監督はまるでドキュメンタリーを撮るように記録し、編集でドラマ性のあるフィクション作品に昇華させた。

 製作の動機について舩橋監督は「匿名で無責任に他人の過去を暴き、中傷する行為が加速している。不寛容というより、無知・無関心ゆえの温和な『無寛容』が時に凶暴性を持って他人に向かう。そうした厳しい視線を向けられやすい元受刑者と、それを支える人々を描きたかった」と語った。また、「一度レールを踏み外したらセカンドチャンスが奪われ続ける社会は、実は日本の隠された闇である」とも強調した。

 長く矯正行政に携わってきた名執雅子氏は「重い映画。最も衝撃的だったのはその手法。俳優もきつかったと思うが、それがリアリティーを生んでいる」と指摘。2016年に再犯防止推進法ができるなど、犯罪への無関心・無寛容は和らいではきたものの、「塀の中と外」「司法と福祉」「国と自治体」の連携など、出所者を巡る課題はまだまだ多いと分析した。

 これから見る方のために映画の詳細には触れないが、125分の上映時間中、ほかの考え事をする時間は1分もなく、自分もスクリーンの中にいると錯覚するほど集中した、とお伝えしておきたい。


ゲスト / Guest

  • 過去負う者

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