2023年07月05日 13:30 〜 14:30 10階ホール
「関東大震災100年」(4) 映画「福田村事件」監督 森達也さん

会見メモ

9月1日に映画「福田村事件」が公開される。監督の森達也さんが登壇し、なぜいま「福田村事件」を取り上げたのか、劇映画とドキュメンタリーの差、いまの社会や日本の新聞をはじめとするメディアについて思うことなどについて話した。

「福田村事件」は関東大震災の発災後に広がった流言により起きた虐殺事件の一つ。

香川県から千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)に来た15人から成る薬の行商団が、朝鮮人と間違われ地元自警団に襲われ、幼児や妊婦など9人(胎児を含め10人)が虐殺された。

 

司会 早川由紀美 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)


会見リポート

集団の危うさと、忖度しない記者の必要性

石川 智也 (朝日新聞社オピニオン編集部)

 オウム、放送禁止歌、右翼、死刑、天皇……。火中の栗を拾うような主題をわざわざ作品化してきた森達也さん。その鬼才が初の劇映画作品で選んだ題材は、歴史の闇に埋もれていた100年前の虐殺事件だった。一貫してこだわり続けてきた「集団」そして「メディア」の問題に、今回もがっぷり四つに組んだ作品と言える。

 関東大震災発生5日後の1923年9月6日、千葉県福田村(現野田市)で、香川県の被差別部落から来た行商団15人が朝鮮人と決めつけられ、地元の自警団に襲われ9人が惨殺された。そのままの表題「福田村事件」(9月1日公開)の焦点は、ごく普通の市井の人々が残忍な「加害者」と化す過程だ。

 「こういう映画は、被害者の視点で作るのが普通です。でも描きたかったのは、善良な人が環境次第で悪を犯すということ。他人事ではない。誰にでもその要素があるんです」

 その誘発要因は、不安に駆られ人々が群れ化すること。「特に日本人は、和を乱さない。集団になった時に間違いを犯す。その傾向が強い」

 100年前、その「集団化」のトリガー要因は、メディアだった。新聞は流言飛語の真偽を確かめず「不逞鮮人」への警戒をあおった。今作では、真実を伝えようと葛藤する記者と上司との軋轢も重要なモチーフになっている。

 報道が作為と不作為を犯さぬためには、何より個々の記者が自主規制に陥らず、一人称の主語を持ち続けることだ、と訴える森さん。「故ジャニー喜多川氏の性加害疑惑や、旧統一教会と自民党の問題も同じ。記者たちは皆知っていたはず。馴致されない、周りを気にしない記者が、もっと増えるべきです」

 報道に携わる私たちへの、大きな戒めかもしれない。


ゲスト / Guest

  • 森達也 / Tatsuya MORI

    映画「福田村事件」監督 / Film Director

研究テーマ:関東大震災100年

研究会回数:4

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