2020年02月20日 13:00 〜 14:30 9階会見場
「シリーズ人生100年」(1) 社会保障と財政/改革の方向性 小塩隆士・一橋大学教授

会見メモ

政府の「全世代型社会保障検討会議」は夏までに最終報告をまとめる予定としている。「シリーズ人生100年」では今後の社会保障制度改革では何を議論すべきなのか、まだ議論されていないことは何か、各分野の専門家に問題を提起してもらう。

 初回ゲストとして『人口減少時代の社会保障改革』(2005年)で、支える側の視点から制度の在り方を分析した小塩教授が登壇した。小塩氏は、社会保障の負担をめぐる「世代間格差」は現在の「若者VS高齢者」ではなく、「現在世代(若者+高齢者)VS将来世代」の問題であると指摘。現行制度での利益追求により将来世代の利益を犠牲にしかねないとし「将来世代の目を意識した改革が必要」と強調した。

 

司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

「現在世代VS将来世代」

古池 一正 (共同通信社生活報道部長論説委員)

 過去50年間の政府規模の拡大は社会保障費の増加でほぼ説明でき、財政収支の基調も社会保障が大きく左右してきた。日本の財政政策は事実上、財務省ではなく厚生労働省が決めている。財政と社会保障は一体として見ていかなくてはならない。

 バブル経済崩壊後、高齢者の増加とともに社会保障の給付は増えたが、税や社会保障の負担はそれに見合うほどには増えていない。こうした帳尻が合わないことが可能なのは、財源の調達方法を、税や保険料として直接支払う方法から、金融機関が預貯金で国債を購入する方法に変えてきたからだ。

 若い世代と高齢者世代との世代間格差を埋める所得の再分配という機能は、現在の社会保障でも働いているが、その差は実は大きくない。高齢者の受益に比べ若者の負担はそれほど重くないからだ。負債は将来に回されており、「若者VS高齢者」ではなく「現在世代VS将来世代」とみるべきだ。

 国内で生産されたものから消費されたものを引く「国民貯蓄」から、さらにメンテナンス費としての「固定資本減耗」を引いた「国民純貯蓄」は、次の世代に残す富を意味するが、バブル期を頂点に減少傾向にあり、食いつぶし局面に入る恐れがある。生産する人が減り、食べる人が増えるのだから当然のことだ。

 このため必要な改革として、支え手を増やすことと、効率的な支出に変えることの2つが考えられる。働く意欲・体力のある高齢者は多く、支え手を増やす余地はある。支出はこれまでのような「高齢者」全般を対象にするのではなく、世代を問わず真に「困っている人」へ向けるべきだ。貧しさは比較的把握しやすいが、豊かさを評価するのは難しく課題だ。

 人口減の問題に対応するため外国人の受け入れを拡大することは有効だが、文化的、社会的な問題もあり長期的な計画が必要だ。


ゲスト / Guest

  • 小塩隆士 / Takashi Oshio

    一橋大学教授 / professor, Hitotsubashi University

研究テーマ:シリーズ人生100年

研究会回数:1

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