2019年11月29日 10:30 〜 12:00 10階ホール
著者と語る『スーパー大陸』ケント・カルダー・ジョンズホプキンズ大学高等国際問題研究大学院副学長

会見メモ

米国における知日派の代表格、ケント・カルダー氏が、アジアと欧州が結びつき、ユーラシア大陸が北米大陸を凌駕し、世界秩序を変えていく可能性を説いた近著『スーパー大陸』(潮出版社 11月5日刊行)について語った。

ケント・カルダー氏(ジョンズホプキンズ大学高等国際問題研究大学院ウェブサイト)

司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)

通訳 池田薫(サイマル・インターナショナル)


会見リポート

デジタル技術が統合促す/変わる地政学の力学

西村 博之 (日本経済新聞社編集委員兼論説委員)

 ユーラシア大陸が、世界を変え得る一大勢力として浮上しつつある。そう説いた新著『スーパー大陸』のエッセンスを、時に流ちょうな日本語も交えて語った。

 英地理学者マッキンダーと米戦略家ブレジンスキーの影響を受けたというが、最新の世界情勢を織り込んで伝統的な解釈に挑んだ分析は刺激的だ。例えばブレジンスキーは「ユーラシアは大きすぎて一つになれない」とみたが、カルダー氏は「世界は変わった」と話す。エネルギーや金融、物流分野の統合が進み、これを中国が各種の枠組みを通じて後押ししている点を挙げる。

 ここで統合の力学として「物流革命」を持ち出したのは斬新だ。「地理は重要だ」と言うカルダー氏はインターネットが物理的な距離を無意味にしたとの論に否定的だ。むしろデジタル技術が物流の効率を高め、商取引を増やした結果、ユーラシア統合を加速させているとみる。技術革新を踏まえた地政学の新機軸だ。

 ユーラシア統合には歴史上いくつかの重大な転機があったという。中国の発展を方向付けた「四つの近代化」(1978年)、同国の中央アジア進出を可能にしたソ連崩壊(1991年)、東欧と中国を接近させたロシアのクリミア半島併合(2014年)に加え、米金融危機(2008年)を挙げたのは興味深い。

 景気対策による巨額インフラ投資で中国国内の道路・鉄道網が西方へ大きく延び「欧州やホルムズ海峡への道のりの半分が完成した」点にカルダー氏は着目する。これが後の「一帯一路」政策を地ならしした。

 ユーラシアの浮上は世界の秩序をも揺さぶる。戦後、米国が主導したルール重視の秩序が退潮し、それと重なる形で中国による利益分配型の地域主義が強まるとみるカルダー氏。「各国はどんな世界を構想しているのだろう」と問い掛け、「米国や日本も対応が必要だ」と訴えた。


ゲスト / Guest

  • ケント・カルダー / Kent E. Calder

    アメリカ / USA

    ジョンズホプキンズ大学高等国際問題研究大学院副学長 / Vice Dean for Faculty Affairs and International Research Cooperation, Johns Hopkins University School of Advanced International Studies (SAIS)

研究テーマ:『スーパー大陸』

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